健康診断や人間ドックで、血糖値が高いと指摘された経験がある人もいるのではないでしょうか。
糖尿病は一度発症してしまうと完治は期待できず、さらに動脈硬化が進行した場合は、心筋梗塞や脳梗塞など命に関わる疾患につながります。
このような疾患を予防するには、食事や運動など生活習慣を見直して血糖値コントロールを行い、耐糖能異常を改善するのが大切です。
- 耐糖能異常は糖尿病の前段階
- 心血管疾患を引き起こす危険性
- 食事による血糖値改善方法
- 運動による血糖値改善方法
- 薬物治療の検討
- 日々の血糖値把握が血糖値コントロールにつながる
- 早期に医療機関を受診する重要さ
耐糖能異常の改善には、日々の血糖値を把握して継続的に食生活の改善や運動を行い、血糖値コントロールをする必要があります。
耐糖能異常は血糖値が正常より高く糖尿病になる前段階の状態である
食事をすると糖質が体内でブドウ糖に分解されて血糖値は上昇しますが、通常は血糖値を下げるインスリンの働きによって、ブドウ糖は細胞内に取り込まれます。
しかし、耐糖能異常がある人は血糖値を正常に保つためのインスリンの働きが十分ではなく、ブドウ糖の処理能力が落ちているため血糖値は容易に下がらない状態です。
耐糖能異常とは血糖値が正常範囲を超えていることであり、空腹時血糖値や食後血糖値が高く、放置すると動脈硬化や糖尿病につながります。
耐糖能異常の診断基準は、以下のとおりです。
- 空腹時血糖値が110〜125mg/dL
- 経口ブドウ糖負荷試験で血糖値が140〜199mg/dL
耐糖能異常かどうかは、空腹時に75gのブドウ糖を含んだ炭酸水を飲み、時間ごとの血糖値値推移を把握する経口ブドウ糖負荷試験を行います。
空腹時血糖値や経口ブドウ糖負荷試験の値が高い場合、耐糖能異常と診断されますがこれは糖尿病になる前段階の状態であり、血糖値コントロールができていない状態です。
耐糖能異常が起こる原因には、以下のようなものがあります。
- 生活習慣の乱れ
- 肥満
- 遺伝的要因
- ストレス
- 加齢
これらの要因によって、インスリンの分泌不足やインスリン抵抗性を引き起こし、血糖値に影響を及ぼします。
肥満や暴飲暴食など食生活の乱れは、インスリンの働きが悪くなるインスリン抵抗性を引き起こすため、ブドウ糖が細胞にうまく取り込めません。
さらに血糖値が高い状態が続くため、インスリンの分泌を促すすい臓が過剰に働いて血糖値を下げようとした結果、すい臓は疲弊して十分にインスリンを分泌できなくなります。
このような耐糖能異常の段階で、インスリンの働きを助ける食事の見直しや運動を行い、血糖値コントロールを行うのが重要です。
耐糖能異常は糖尿病だけでなく心血管疾患を引き起こす危険性がある

耐糖能異常の段階で血糖値コントロールを行うと動脈硬化や糖尿病は予防できますが、自覚症状がほとんど現れず、早期発見が難しいのが現状です。
さらに、健康診断や人間ドックで血糖値が高いと指摘された場合も、自覚症状の乏しさから病院を受診しなかったり治療を自己中断したりする人が多くいます。
そのため、症状が現れた時にはすでに糖尿病を発症していたり、進行していたりする可能性があります。
耐糖能異常の状態は、糖尿病を発症していなくても動脈硬化を引き起こし、心血管疾患を発症する危険性が高いです。
高血糖の状態が続くと血管の内壁が傷つき、そこへLDLが入り込み、酸化LDLに変化して血管に炎症を引き起こします。
これを処理するために、マクロファージと呼ばれる免疫細胞が、LDLに含まれているコレステロールや脂肪を取り込みます。
動脈硬化が進行すると、血管の狭い部分では血流停滞が起こったり、運動などによって血管が収縮した時に血流が一時的に減少したりします。
血流が減少すると、その先の組織に酸素や栄養が十分に行き渡らなくなるため、例えばその部位が心臓に起った場合は胸痛などの症状が現れるでしょう。
一方、血流が停滞するとその部位で血栓が容易にできてそれが血流にのって心臓や脳に飛んだ場合、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こします。
加えて、プラークが破れると傷口を修復するために血液中の血小板と呼ばれる細胞が集まり、血液を凝固させて血栓を形成します。
形成された血栓で血流が遮断された場合も、塞がれた部位によって心筋梗塞や脳梗塞を引き起こすため、こうした疾患を防ぐには動脈硬化の予防が大切です。
健康診断や人間ドックを受けて血糖値の検査をし、異常がある場合は、早期に医療機関を受診したり自己判断で治療を中断したりしないようにするのが重要です。
食事の摂取方法を工夫すると耐糖能異常の改善につながる

耐糖能異常の場合は、食生活の改善を行うと糖尿病や動脈硬化の予防につながります。
炭水化物に含まれる糖質は摂取すると血糖値を上昇させますが、食べる食品や食べ方を工夫して上昇を抑制し、血糖値をコントロールするのが大切です。
食後の血糖値を急上昇させる要因には、以下のようなものがあります。
- 糖質の過剰摂取
- 暴飲暴食
- 高GI食品の摂取
- 糖質から摂取する
- 早食い
- 偏食
糖質の過剰摂取や高GI食品の摂取などは、食後血糖値の乱高下を引き起こし、インスリン抵抗性や分泌不足を招きます。
食品には、摂取後の血糖値上昇度を示すGI値という指標があり、高GI食品とはGI値が70以上のことで血糖値を急激に上昇させる食品を指します。
水溶性食物繊維は胃腸内をゆっくり移動して糖質の消化吸収を遅らす
食物繊維は食べても消化されないため血糖値にほとんど影響を与えませんが、さらに血糖値の上昇を抑制する効果もあります。
食物繊維を豊富に含む食品には、以下のようなものがあります。
- モロヘイヤ
- ブロッコリー
- おくら
- 大豆
- キノコ類
- わかめ
- 大麦
- オーツ麦
- 玄米
糖質を摂取した時に食物繊維が胃腸内にある場合は、消化酵素が直接糖質に触れなくなり、消化吸収がゆっくりになります。
さらに食物繊維の中でもとくに水溶性食物繊維は水に溶けてゼリー状となり、胃腸内をゆっくり移動するため、糖質の消化吸収を遅らせて血糖値の上昇を抑制するのに役立ちます。
わかめやおくらなどに多く含まれており、胃腸内に停滞する時間が長くなるため、食べ過ぎ防止にも効果的です。
タンパク質や脂質は消化吸収がゆっくりであるため満腹感を与える
タンパク質や脂質は消化吸収に時間がかかるため、糖質を摂取する前に食べると糖質の消化吸収も緩やかになり、血糖値コントロールに役立ちます。
さらに、タンパク質や脂質の摂取は、インクレチンと呼ばれる消化管ホルモンの分泌を促進します。
糖質が消化吸収される時間の延長やインクレチンの働きによって、食後血糖値の上昇が緩やかになり、血糖値コントロールにつながります。
加えて良質なタンパク質や脂質の摂取は満腹感が得られ、糖質の摂取量を減らしても満足感のある食事が可能になるため、食べ過ぎ防止にも効果があるでしょう。
食べる順番は食物繊維から食べて最後に糖質の摂取が効果的である
糖質を摂取する前に食物繊維、その次にタンパク質や脂質、最後に糖質を摂取すると食後血糖値の急上昇を抑制するのに効果的です。
糖質を摂取するとすぐに消化吸収が始まり、血糖値を上昇させて2時間以内に食前の値に戻ります。
しかし、食事の最初に食物繊維を食べた場合、その後に糖質を摂取しても胃内にある食物繊維の働きによって消化吸収がゆっくりになります。
そのため、血糖値もゆっくり上昇しますが、さらに効果的な食べ方は糖質を摂取する15分前に野菜など食物繊維が豊富な食品を摂取するのが望ましいです。
次にタンパク質や脂質の摂取も糖質の消化吸収を抑制させたり、インスリンの分泌を促すインクレチンの働きを促進したりして、食後血糖値の上昇を抑制します。
最後に糖質を摂取するこのような食べ方をカーボラストと言いますが、この食べ方は血糖値をコントロールするのに効果がある方法です。
加えて食事開始から20〜30分程度で満腹中枢が刺激され始めるため、食物繊維やタンパク質などをゆっくり時間をかけて取ると、食べ過ぎ防止につながります。
運動の習慣化はブドウ糖を効率よく消費し血糖値を安定させる

耐糖能異常の改善には、有酸素運動や筋力トレーニングなどの運動も効果的です。
運動すると血液中のブドウ糖を消費してエネルギーとして利用するため、インスリンの働きが改善します。
とくに食後の有酸素運動は、ブドウ糖を効率よく消費して血糖値の急激な上昇を抑制できます。
血糖値コントロールに効果的な有酸素運動は、以下のとおりです。
- ウォーキング
- ジョギング
- 水泳
- サイクリング
これらの運動を週に3〜5回、30分〜1時間行うなど無理のない範囲で習慣化するのが望ましいでしょう。
とくに、筋肉はブドウ糖を多く消費する組織であるため筋肉トレーニングを行い筋肉量を増やすと、ブドウ糖の消費量も増加して血糖値コントロールに役立ちます。
さらに、筋肉には体内のブドウ糖を貯蔵する役割があり、余分なブドウ糖をグリコーゲンとして貯蔵する働きがあります。
筋肉量が多いとブドウ糖をグリコーゲンとしてより多く貯蔵できる上、空腹時や運動時にエネルギーとして使うため、血糖値上昇の抑制が可能です。
食事改善や運動をしても血糖値が改善しない時は薬物療法が検討される
耐糖能異常は基本的には薬物療法は不要ですが、3〜6ヶ月間、食生活の改善や日常生活に運動を取り入れても血糖値が改善しない場合は薬物療法が検討されます。
血糖値コントロールにはα-グルコシダーゼという薬を使用する場合がありますが、この薬は、腸でブドウ糖の消化吸収を遅らせる働きがあります。
糖質が腸で消化吸収される仕組みは、以下のとおりです。
- 糖質摂取
- 口腔内で唾液に含まれるα-アミラーゼによって一部のデンプンが分解
- 食物が胃に到達すると胃酸によってα-アミラーゼ失活
- 食物が十二指腸に到達すると膵(すい)α-アミラーゼにより分解
- でんぷんがマルトトリオースやマルトースなどに変わる
- 小腸粘膜にあるα-グルコシダーゼという酵素によってブドウ糖に分解
- ブドウ糖が小腸粘膜の上皮細胞に取り込まれて血中へ移行
- 血糖値が上昇する
糖質を摂取しても小腸で吸収するには、単糖類であるブドウ糖に分解されなければいけません。
α-グルコシダーゼ阻害薬は、α-グルコシダーゼの働きを阻害する薬であるため、単糖類への分解を遅らせて血糖値の急激な上昇を防ぐ効果があります。
しかし、薬を服用していても食生活の改善や運動を継続的に行うのは、血糖値をコントロールする上で非常に大切です。
自己血糖測定値と食事などの記録は血糖値コントロールに役立つ

血糖値コントロールをしていく上で、日々の血糖値チェックは欠かせません。
自宅でも血糖測定器を使用して、1日のうちに食前や食後を中心に数回血糖値を測定すると、日常生活においての血糖値変動を把握できます。
血糖値コントロールに役立てるには測定した血糖値のみではなく、食べた時間や食品、運動を行ったタイミングなど細かくノートなどに記録するのが大切です。
しかし、ここで重要なのは記録のみで終わるのではなく、血糖値が高かった場合になぜ高いのかを考えて次に生かせるように振り返る必要があります。
公益社団法人日本糖尿病協会(JADEC)では、測定した血糖値を記録できる自己管理ノートを無料で発行しているため、医療機関受診時に医師へ確認するかJADECに送付を依頼しましょう。
健康診断で血糖値に異常があった場合は早期の医療機関受診が望ましい

健康診断や人間ドックで空腹時血糖値やHbA1cの値が高い場合は、自覚症状がなくても医療機関を受診してください。
受診の目安は、以下のとおりです。
- 空腹時血糖値が100mg/dL以上の人
- HbA1cが5.6%以上の人
上記の値を超えているという理由ですぐに糖尿病と診断はされませんが、医療機関を受診して詳しく検査するのが大切です。
糖尿病の前段階において最初に血糖値に異常が現れるのは、食後血糖値の場合が多いため、75gブドウ糖負荷試験を行う必要があります。
その検査で食後高血糖と診断されると、食事改善や日常生活に運動を取り入れて血糖値コントロールをしていきます。
食事や運動に気をつけていても血糖値コントロールが難しい場合は、方法が適切かどうか、あるいは別の要因があるかを確認するためにも定期的な受診が必要です。
継続的に病院を受診して血糖値コントロールの状態を把握し、3〜6ヶ月経過してもコントロールができていないと薬物療法が検討される場合もあります。
このように血糖値に異常が現れた段階で早期に対応すると、血糖値コントロールの改善だけでなく、動脈硬化や糖尿病の予防にもつながります。
耐糖能異常を改善するには血糖値コントロールが大切である
耐糖能異常を改善するには、食生活の見直しや運動を行い、血糖値コントロールをするのが重要です。
自覚症状は乏しいですが血糖値が高い状態が続いており、すい臓を疲弊させたり血管にダメージをあたえたりしています。
その結果糖尿病や動脈硬化を招き、心筋梗塞や脳梗塞など命に関わる疾患を引き起こす危険性があり、血糖値の異常が見られたら早期に病院を受診してください。
耐糖能異常の段階では食事や運動など生活改善を行うと、血糖値コントロールが可能であるため、治療方針を医師と話し合うのが大切です。
食事や運動を行っても血糖値コントロールが困難な場合は、薬物療法が検討されますが、定期的に受診して検査していると早期に対策がとれます。
さらに自宅でも自己血糖測定を行って食事や運動内容とともに測定値もノートに記録しておくと、血糖値コントロールの改善だけでなく、治療方針決定にも役立ちます。
定期的に医療機関を受診し、血糖値コントロールを行って改善と予防に努めましょう。