糖尿病の人や血糖値を気にしている人は、糖代謝という言葉を聞く機会はあっても、科学的にその内容を理解できている人は少ないのではないでしょうか。
糖代謝の乱れは生活習慣病のリスクを招き、心筋梗塞や脳梗塞といった生命に直結する疾患を発症する可能性があります。
本記事では、科学的な視点と医学的な根拠をもとに、糖代謝を改善するための方法について解説します。
- 糖代謝とは、取り込んだ糖質がエネルギーに変わる仕組みのこと
- インスリンの働きが低下すると高血糖や脂肪蓄積を招く
- 高血糖は動脈硬化や脂質異常症、代謝症候群のリスクを増やす
- タンパク質と質の良い脂質を組み合わせると、食後血糖値の急上昇を抑える
- 有酸素運動は筋肉が糖質を取り込む働きを高める
- 睡眠不足やストレスは、高血糖状態を招く
- 糖代謝改善に向けたセルフモニタリング法には、運動や食材選び、睡眠状況や血糖値の記録が有効
- 生活習慣改善だけで良くならない場合は、薬物療法や専門的指導が必要
科学的な視点で理解できると、日常生活を送るうえで自然と糖代謝改善に向けた行動を意識できるため、ぜひ確認してみてください。
糖代謝が乱れるとどのような影響が起きるかを理解する
この過程には、膵臓から分泌されるホルモンであるインスリンが重要な役割を果たしており、インスリンの働きが低下すると高血糖状態や脂肪の蓄積を招きます。
体内では、以下の流れで糖代謝が行われています。
- 炭水化物を食べる
- 消化酵素によって、ブドウ糖などに分解される
- ブドウ糖は小腸から吸収されて血液中に入り、血糖値が上がる
- 血糖値の上昇を感知して、膵臓からインスリンが分泌される
- インスリンの働きにより、ブドウ糖が筋肉や肝臓、脂肪に取り込まれる
- それぞれの細胞内で、ブドウ糖がエネルギーに変わる
- 使われなかったブドウ糖は、肝臓や筋肉に一時的に蓄えられる
- さらに余ると、脂肪として蓄積される
高血糖状態が続くと、余った糖質が脂肪に変わって身体にたまり、血管が傷つく可能性が高まります。
その結果、動脈硬化や脂質のバランスの崩れが起こり、生活習慣病が重なった代謝症候群に進みます。
これらは、将来の糖尿病や心臓病の原因になるため、糖の代謝を整えるのは生命予後において大切です。
参考:糖尿病診療ガイドライン2024
動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版
糖代謝改善につながる食事の基本方針を確認して食生活を見直す

糖代謝改善につながる食事の基本方針としては、以下の4点があります。
科学的な理由とあわせて記載したため、確認してみましょう。
食事の基本方針 | 内容 | 理由 |
---|---|---|
糖質の量と質を見直す | ・血糖値の急上昇を招く、白米や白パンなどの高GI食品を控える。 ・血糖値が緩やかに上がる全粒粉や雑穀、野菜などの低GI食品を中心にする。 ・食べすぎを避け、1回あたりの糖質量をコントロールする。 | ・血糖値が急激に上がらない食品選びにより、糖質量を調整して、血糖値をコントロールできる。 |
食物繊維をしっかり取る | ・野菜や海藻、豆類やきのこ類などの食物繊維を取る。 | ・糖の吸収が緩やかになり、腸内環境も整えられる。 |
タンパク質と良質な脂質を組み合わせる | ・魚や大豆などの高品質なタンパク質と、青魚やナッツ、アボカドなどの良質な脂質を一緒に取る。 | ・食後の血糖値上昇が緩やかになる。 |
加工食品・清涼飲料水の摂取を控える | ・菓子パンやスナック菓子、ジュースなどの精製糖質や添加糖が多い食品は控える。 | ・血糖値が急激に上がるため、インスリン分泌に伴う身体への負担が大きい。 |
良質な脂質や良い油とは、健康をサポートする働きのある脂肪酸のことです。
特に次のような脂肪酸を含む脂質が良質とされます。
- 一価不飽和脂肪酸
- 多価不飽和脂肪酸
オレイン酸などの一価不飽和脂肪酸は、悪玉コレステロールを減らして動脈硬化を予防する働きがあり、オリーブオイルやアボカドなどに含まれています。
オメガ3やオメガ6などの多価不飽和脂肪酸は、炎症を抑えたり血液をサラサラにしたりする働きがあり、青魚やごま油などに含まれています。
いずれも無理のない範囲で、好みの食材から取り入れてみてください。
参考:Glycemic index: overview of implications in health and disease
Dietary Fiber, Atherosclerosis, and Cardiovascular Disease
Sugar-sweetened beverages and risk of metabolic syndrome and type 2 diabetes: a meta-analysis
「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書
Monounsaturated fatty acids and risk of cardiovascular disease: synopsis of the evidence available from systematic reviews and meta-analyses
糖代謝改善のために継続できる運動習慣を導入して実践する

糖代謝を改善するために有効な方法は、食事以外に運動習慣などがあります。
なぜ運動習慣が大切かというと、運動には余った糖を効率良く使う働きがあるためです。
特にウォーキングやジョギングなどの有酸素運動は、筋肉に酸素を届けながら動かす運動で、筋肉への糖の取り込みを高めます。
運動量自体は、週150分以上の中程度の運動が推奨されており、例として週5日は1日30分のウォーキングなどが目安です。
最初は通勤や買い物を徒歩に変えたり、自宅でスクワットやかかとの上げ下げから始めたりするなど、ストレスになりすぎない方法を検討すると良いでしょう。
参考:Exercise training-induced improvements in insulin action
健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023
Strength training increases insulin-mediated glucose uptake, GLUT4 content, and insulin signaling in skeletal muscle in patients with type 2 diabetes
糖代謝改善には休息とストレス管理が重要である理由を科学的に知る

糖代謝を整えるには、運動や食事だけでなく、休息やストレス管理も欠かせません。
休息とストレスがどのように影響を与えるのか、以下にまとめました。
糖代謝に影響を与える行動 | 体内の働き |
---|---|
睡眠不足 | 1.睡眠が不足すると、自律神経のうち交感神経が過剰に働く。 2.交感神経が働く時間が長いと、インスリンの効き目が悪くなる。 3.糖が細胞に取り込まれず、高血糖状態が続くリスクが高まる。 4.同時に空腹ホルモンが増え、満腹ホルモンが減るため、食欲が増す。 |
ストレス | 1.強いストレスや慢性的な不安状態は、体内でコルチゾールというストレスホルモンを増加させる。 2.コルチゾールの働きにより、血糖値が一時的に上昇する。 3.1と2が続くと、インスリンの働きが鈍くなる。 4.身体のインスリンへの反応性が下がる。 5.同時に、ストレスにより暴飲暴食や甘いものへの欲求が高まると、糖質の過剰摂取につながる。 |
睡眠をしっかり取り、気持ちが落ち着く時間を意識して作ると、血糖コントロールや生活習慣病の予防につながります。
参考:e-ヘルスネット(厚生労働省)「睡眠と生活習慣病との深い関係」
Effects of sleep fragmentation on glucose metabolism in normal subjects
The inflammatory consequences of psychologic stress: relationship to insulin resistance, obesity, atherosclerosis and diabetes mellitus, type II
日常でできる糖代謝改善のセルフモニタリング法を利用する
糖代謝を整えるために日常からできる有効な方法には、血糖値の変化と日常生活の関係を知るセルフモニタリング法があります。
これは起床時や食後の血糖値と、血糖値に影響する行動も同時に記録して、自分に合った改善点を見つけるという方法です。
基本的な記録項目の例には、以下のものがあります。
日付 | 起床時の血糖値 | 食後1~2時間の血糖値 | 食事内容 | 運動内容 | 睡眠時間と質 | ストレスと体調 |
---|---|---|---|---|---|---|
7/22 | 95mg/dL | 朝食後 120mg/dL | ・玄米 ・味噌汁 ・焼き魚 | ウォーキング30分 | 6時間、やや浅い | 少し疲れあり |
7/23 | 100mg/dL | 昼食後 150mg/dL | ・パスタ ・ジュース ・野菜 | 運動なし | 8時間、良好 | ストレス多め |
これらのフォーマットを使用する際のポイントは、以下のとおりです。
- 毎日食後の血糖値を測定する
- 食事の内容や食べる順番、調理法も記録しておくと更に良い
- 歩数計やアプリも活用して、運動の種類と時間を記録する
- 睡眠の質や時間、ストレス状況も簡単にメモしておく
- 血糖測定時は時間をずらさないなど、できるだけ同じ環境下で行う
- 1週間単位で振り返り、血糖管理が上手くいった日とその理由を探る
視覚化して分析すると、血糖値の変化に自分の生活習慣がどう影響しているかが見えるうえ、医師や栄養士と相談する際にも役立つ客観的な記録となります。
さらに行動の改善が血糖値に反映されると、モチベーションにもつながるでしょう。
医療的サポートが必要な場合と対応内容を把握して糖代謝の悪化を防ぐ

糖代謝の乱れは生活習慣の改善により、多くの場合は改善が見込まれるものの、すべての人が自己管理だけで十分なコントロールを得られるとは限りません。
特に以下のような状況では、医師の診察や治療が重要になります。
- 生活習慣の改善のみでは血糖コントロールが不十分な場合
- 他の病気がある場合
通常、食事療法や運動療法を数か月継続しても高血糖状態が持続する場合には、医師の判断により薬物療法が検討されます。
血糖値を管理するうえで使用される薬剤には、作用機序の違いから複数の種類があり、その違いを理解しておくのは重要です。
薬の名前 | 主な働き | 低血糖の心配 | 副作用 |
---|---|---|---|
メトホルミン | 糖の過剰生成を防ぐ | 少ない | お腹がゆるくなる |
SU薬 | インスリンの分泌を促す | 多い | 低血糖、体重増加 |
グリニド | 食後すぐのインスリン分泌を促す | ややあり | 軽い低血糖、お腹の不快感 |
α-GI薬 | 糖の吸収を緩やかにする | 少ない | おなら、お腹の張り |
ピオグリタゾン | インスリンの効き目を上げる | 少ない | むくみ、体重増加 |
DPP-4阻害薬 | インスリンの分泌を助ける | 少ない | まれに膵炎、関節痛 |
GLP-1作動薬 | インスリンと食欲を調整する | 少ない | 吐き気、体重減少 |
SGLT2阻害薬 | 尿から糖を出す | 少ない | 脱水、感染、尿が近い |
インスリン | 血糖値を直接下げる | 多い | 低血糖、体重増加 |
薬物療法以外にも、定期的な血液検査によるモニタリングが必要になります。
血液検査は血糖値の状態把握だけでなく、治療方針の見直しや薬剤の効果と副作用の確認にも使用されます。
高血糖状態が長期化していると、高血圧や脂質異常症、心疾患や腎疾患などを併発している可能性もあります。
この場合には糖尿病専門医と内分泌科医、管理栄養士と薬剤師といった、多職種での連携による専門的な指導や治療の調整が不可欠です。
参考:糖尿病性腎症重症化予防プログラム
日本糖尿病・生活習慣病ヒューマンデータ学会「糖尿病標準診療マニュアル2023 一般診療所・クリニック向け」
科学的な視点から糖代謝改善の必要性を理解し行動できると生活習慣病の予防につながる
糖代謝が改善されると血糖コントロールが安定し、生活習慣病の予防にもつながります。
反対に糖代謝が改善されなければ、糖尿病や動脈硬化、高血圧や脂質異常症といった生活習慣病のリスクが上がります。
日々の血糖値や体調を記録して自分の変化を把握し、必要に応じた医療機関への相談が、長く健康を保つために大切なステップになります。
現代は成人の約 3人に1人が何らかの生活習慣病を抱えているとされ、決して他人事ではないため、危機感を持って自己管理をしていきましょう。