糖尿病はある日突然発症するのではなく、遺伝的因子に環境因子と加齢が加わり、ゆっくりと発症します。
糖尿病を発症するまでには、10年以上に渡る前駆状態の期間があるといわれていますが、前駆状態にあっても自覚症状はほぼありません。
また前駆状態では、健康診断等で測定する空腹時血糖値は正常である場合がほとんどです。
そのため初期症状を見逃し、合併症が進行してから糖尿病の診断を受ける人が多くいます。
糖尿病の初期症状では、足の裏が熱いと感じる場合があります。
これは三大合併症のひとつである糖尿病末梢神経障害の症状です。
しかし糖尿病の初期症状と気づかずに、放置されてしまう症例が多くみられます。
糖尿病の三大合併症を引き起こしてしまうと、最悪の場合失明や足の切断、人工透析の開始など生活の質は著しく低下します。
適切な治療を早い段階で受け、合併症を引き起こさないよう、初期症状を見逃さないようにしましょう。
- 糖尿病性神経障害の初期症状
- 糖尿病性神経障害の進行後の症状
- 糖尿病性神経障害の予防と治療方法
ぜひ、参考にしてください。
足の裏が熱いと感じるのは糖尿病性神経障害の初期症状である可能性が高い
糖尿病性神経障害の初期症状のひとつに、足の裏が熱いと感じる症状があります。
神経には脳や脊髄といった中枢神経と、そこから枝分かれし、手足や皮膚に広がる末梢神経があります。
糖尿病性神経障害で障害を受けるのは、主に末梢神経です。
末梢神経には体を動かす運動神経、痛みなどを感じる感覚神経、血圧や呼吸など体の調節を行っている自律神経の3種類があります。
神経は、身体の隅々まで張り巡らされています。
長い神経の先ほど酸素や栄養が行き渡りにくいため、人体で最も長い神経である足から症状が現れます。
糖尿病性神経障害による主な初期症状を、以下にまとめました。
- 足や足の指が熱く感じたり、冷たく感じる
- 砂利の上を歩く感じがする
- 足がしびれる
- 足に虫が這ったり、紙を貼ったように感じる
- 安静時や睡眠中に足をつる(こむら返り)
糖尿病性神経障害では、 症状は左右対称に現れます。
神経障害の原因は高血糖であり、血液は左右対称に流れており、血糖値に左右差がないためです。
また、安静時や夜間に起こる場合が多いと言われています。
足のしびれの症状は、糖尿病性神経障害だけでなく、整形外科疾患でも出現します。
足のしびれが出現する主な整形外科疾患は、以下の通りです。
- 腰部脊柱管狭窄症
- 腰椎椎間板ヘルニア
- 変形性腰椎症
腰部脊柱管狭窄症
脊柱管が狭くなる主な原因を、以下にまとめました。
- 加齢による骨や椎間板の変性
- 骨の増殖
- 靭帯の肥厚
症状は主に腰痛、足のしびれや痛み、歩行困難です。
腰椎椎間板ヘルニア
飛び出した髄核が近くの神経を圧迫し、痛みやしびれ、筋力低下などの神経症状が現れます。
腰椎椎間板ヘルニアの主な原因は、以下の通りです。
- 加齢による椎間板の弾力性の低下
- 重たい荷物を持ったり、無理な姿勢で作業をしたりなどの過度の負荷
- 事故や転倒などによる外傷
好発年齢は主に20〜40歳代で、比較的若い世代に多く発生します。
変形性腰椎症
特徴的な所見として、椎間板の変性や骨の摩耗、骨の異常な突起形成がみられます。
変形性腰椎症の主な原因は、以下の通りです。
- 加齢による椎間板や椎骨の変性によってクッション機能が低下し、骨同士の摩擦が増え、変形や骨棘が生じる
- 長期間にわたる重労働や、無理な姿勢での作業による過度の負荷
- 家族に変形性腰椎症を持つ人がいる場合、遺伝的要因によって発症リスクが高くなる
好発年齢は、50歳以上の中高年で、60歳を超えると発生率が高くなります。
これらの整形外科疾患によるしびれの特徴は片側性ですが、糖尿病性神経障害によるしびれは両側で出現します。
糖尿病性神経障害は足から症状が出現し、進行するとやがて全身に症状が出現します。
糖尿病性神経障害は症状や原因によって多発神経障害と単神経障害に大別される
糖尿病性神経障害は多発神経障害と、単神経障害に分類されます。
多発神経障害とは、複数の神経が同時に機能不全になる状態のことです。
多発神経障害は左右対称性で、広範囲に症状が出現します。
単神経障害は、1本の神経のみに損傷が起きる状態です。
糖尿病患者の場合、目の動きが制限され物が二重に見える外眼筋麻痺や、顔の一部が動かなくなる顔面神経麻痺などが多くみられます。
最も多くみられるのは多発神経障害であり、感覚神経や運動神経、 自律神経に障害が起こるため、さまざまな症状が出現します。
足の裏が熱いと感じるのは、感覚神経の障害による症状です。
感覚神経障害、運動神経障害、自律神経障害による主な症状を以下にまとめました。
感覚神経障害 | 運動神経障害 | 自律神経障害 |
---|---|---|
・感覚が鈍い ・感覚過敏 ・異常感覚 ・しびれ感 ・感覚低下 ・痛み | ・こむら返り ・脱力 ・筋萎縮 | ・立ちくらみ ・排尿障害 ・胃腸障害 ・失神 ・下痢 ・便秘 |
初期の段階で糖尿病患者に好発する両側性の足のしびれや痛みは、感覚性の症状です。
糖尿病性神経障害は放置してしまうと、命に関わるような重篤な状態を引き起こす可能性があります。
糖尿病性神経障害が進行すると引き起こされる症状を、以下にまとめました。
無自覚性低血糖 | 通常、低血糖状態になると、身体は震えや発汗などの警告サインを出すしかし、自律神経系の損傷により血糖値が低下しても体がそれを適切に認識できず、無自覚性低血糖が起こる低血糖が進行しても自覚症状を感じず気づかないため、意識を失う可能性がある |
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神経麻痺 | 神経が麻痺するため、痛みや温度の感覚が鈍くなったり失われたりするため、ケガや火傷に気づかず悪化してしまう可能性がある |
壊疽(えそ) | 壊疽(えそ)とは組織が腐敗する状態のこと神経麻痺により、気づかずに放置されたケガや火傷の傷口が潰瘍を形成し、感染を引き起こすと壊疽に至る可能性が高くなる重度の場合は、感染の拡大を防ぐために患部の切断や切除が必要 |
無痛性心筋梗塞 | 通常、心筋梗塞を発症すると胸痛や胸の圧迫感などの症状が出現するしかし、神経障害よって痛みを感じないため、発見や治療の開始が遅くなる |
突然死 | 無自覚性低血糖による昏睡や、自律神経障害により不整脈や呼吸停止を引き起こす可能性が高くなる |
糖尿病性神経障害が進行すると、身体の危険信号に気づかず、最悪の場合命を落とす可能性があります。
糖尿病の発症後は、合併症を引き起こさないよう適切な血糖値のコントロールが大切です。
糖尿病性神経障害の発症や進行の予防には血糖値のコントロールが重要
三大合併症である糖尿病性神経障害は、ヘモグロビンa1cが高くなるにつれ、進行する可能性が上昇します。
血糖値が低い状態が続くと、ヘモグロビンに結合するブドウ糖の量は減少し、ヘモグロビンa1cは下がります。
逆に血糖値が高い状態が続くと、ヘモグロビンに結合するブドウ糖の量が増加するため、ヘモグロビンa1cは上昇します。
ヘモグロビンa1cの値別の、体にもたらす影響は以下のとおりです。
ヘモグロビンa1c | 身体への影響 |
---|---|
5.6%未満 | 普段の血糖値が正常範囲内にあり、影響なし |
5.6〜5.9% | 血糖値が高めになっている状態が時々ある 現在の生活習慣が続くと身体に影響が出てくる可能性があり、食生活や運動習慣の改善が必要 |
6.0〜6.4% | 境界型の状態で、心筋梗塞や脳梗塞など発症リスクが高くなる |
6.5%以上 | 糖尿病、心筋梗塞や脳梗塞などの発症リスクがさらに高くなる |
7.0%以上 | 糖尿病の三大合併症の進行が早まる可能性が高い状態 |
8.0%以上 | 糖尿病の三大合併症の進行が早まる可能性が非常に高い状態 |
9.0%以上 | 糖尿病そのものによる倦怠感や疲労感が強く、感染症になると重症化のリスクが高い |
10.0%以上 | 糖尿病の治療のために医師から入院を勧められる状態 |
ヘモグロビンa1cが7.0%を超えると、三大合併症の進行が早まる可能性が高くなります。
糖尿病性神経障害を引き起こさないための重要なポイントは、以下の通りです。
- ヘモグロビンa1cが7.0%未満となるよう血糖値をコントロール
- 医師から指示された通りの服薬
- 血糖値の自己測定と記録
- 禁煙
- 血圧コントロール
- 定期通院
高血糖状態は末梢神経の代謝に異常をきたして不必要な物質が溜まったり、神経に栄養を与える血管が傷ついて血流が低下したりして、神経の働きに障害をきたします。
医師の指示に従い、処方された血糖降下薬やインスリンを正しく服薬してください。
自己判断での薬の中止や通院の中断は、糖尿病の重症化や合併症の進行につながるため、絶対にしてはいけません。
喫煙や高血圧も血管にダメージを与え、神経障害のリスクを高めます。
喫煙や高血圧の治療も、神経障害の予防や進行を防ぐために重要です。
糖尿病性神経障害と診断されたらフットケアをして重症化を予防しよう
糖尿病が進行し合併症である糖尿病性神経障害が生じると、痛みを感じなくなるため、足にさまざまな皮膚トラブルが生じます。
皮膚トラブルの放置は症状の悪化を招き、疼痛による歩行困難や転倒リスクを高めます。
さらに感染などにより重症化した場合は、下肢切断を決断しなくてはいけません。
下肢切断を回避するためには、普段から足に傷を作らないよう注意する必要があります。
傷や足の変化を見逃さず、足壊疽に至る前に、早期からの適切な治療が重要です。
こうした自身の足に対するケアを、フットケアといいます。
自宅でもできる、フットケアの方法を紹介します。
毎日足の観察をする
お風呂に入る際など、足に何らかの異常がないか、毎日観察しましょう。
足の指の間や爪、かかとなどもしっかりと確認します。
観察時のチェックポイントを、以下にまとめました。
- 傷やあざはないか
- タコやウオノメはできていないか
- 水虫などがないか
- 巻き爪や変形、変色などしていないか
- 肌が乾燥していないか
- 冷えやむくみがないか
- 痛みやしびれはないか
- 痒みはないか
- 感覚のない部分はないか
何かしらの異変が見つかった場合は、かかりつけの医師や看護師に相談してください。
足を清潔に保つ
足の皮膚トラブルは、病原体の感染によるものが圧倒的に多く見られます。
足を清潔にしていないと、病原体に感染しやすくトラブルも生じやすいため、足を清潔に保つよう意識してください。
汚れや病原体の洗い残しがないよう、指の間もしっかりと洗うのがポイントです。
足を保湿する
足の乾燥は、ひび割れの要因となるため、保湿ケアをして乾燥を防ぎます。
ひび割れが生じると、痛みから歩行に支障が出たり、ひび割れ部分から細菌感染する可能性があります。
足を洗った後は、清潔なタオルで水分をしっかりと拭き取り、保湿剤を塗って保湿してください。
特にかかとは乾燥し、ひび割れしやすい部位であるため、重ね塗りするなどていねいに保湿しましょう。
深爪にしない
深爪になると、爪の周りの皮膚が盛り上がり、爪が皮膚に食い込んで巻き爪を悪化させます。
足の爪の形は、丸ではなく四角をイメージし、爪の角は深く切り落とさないようにしてください。
巻き爪になっている場合は、長めにまっすぐに切りましょう。
自分の足に合った靴をはく
足に合わない靴は歩きにくいだけでなく、外反母趾やタコができる原因にもなります。
靴選びのポイントを、以下にまとめました。
- かかとの部分は適度に硬さがあり、なるべく隙間がなくフィットし、抜けにくい物
- 自分の足幅の一番広いところと靴の一番広いところが一致している物
- 自分の足の長さよりも5~10mmの余裕を持たせる
- 靴の大きさはメーカーによって異なるため、必ず試し履きをする
- フィッティングは足が浮腫んでいる夕方以降に行う
- 運動や散歩をする時は、足首が固定されるような、紐やマジックテープが付いた運動靴を選択する
体を支えている足をサポートする靴は、目的や自分の足の形に合った物を正しく選択し、足のトラブルを予防しましょう。
素足を避けて靴下を履く
靴下を履くと水虫が予防でき、足の保護にもつながります。
水虫予防のためには、5本指の靴下が推奨されています。
靴下の重ね履きや、サイズのきつい物は、血行を妨げてしまうため避けましょう。
末梢神経障害のある人は、靴を履く前に異物が入っていないかも確認してください。
やけどに注意
神経障害がある場合、皮膚の温度に対する感覚も鈍ります。
低温やけどを起こしやすいため、湯たんぽや電気毛布などの暖房器具の使用時は、以下の点に注意してください。
- 寝る時はスイッチを切る
- 設定温度を最低にする
- 厚手のバスタオルで包む
- カイロは直接体に貼らない
- ストーブやヒーターに足を近づけすぎない
とくに低温やけどの場合は、自分で熱傷深度を判断できません。
自己処置や自己判断はしない
タコやウオノメを自分で削ったり、自己判断で市販薬を使用したりするのは、創の悪化につながる可能性があります。
傷の周囲が赤く腫れていたり、熱感があったりする場合は感染を起こしている可能性が高いため、速やかに医療機関を受診しましょう。
フットケア外来
近年、足潰瘍や足壊疽などの糖尿病足病変の予防を目的として、糖尿病患者を対象としたフットケア外来を開設している医療機関が増えています。
皮膚トラブルを予防して自分の足を守っていけるよう、看護師がそれぞれの患者に適した日々のお手入れ方法を一緒に考え、指導やケアを行う外来です。
具体的なケア内容は、医師の指示の下で足の痛みや知覚などの検査をし、足の状態に合わせた爪切り、タコやウオノメの処置を行います。
さらに本人や家族へ対する、自宅でもできるような足の観察方法や爪の切り方などの指導です。
糖尿病性神経障害の初期症状を見逃さず早期に治療を開始して進行を防ごう
糖尿病性神経障害の初期症状のひとつに、足の裏が熱いと感じる症状があります。
糖尿病性神経障害とは、末梢神経が高血糖状態によって侵される状態のことです。
神経障害は、高血糖状態によって末梢神経に栄養を運ぶ血管の壁が厚くなり、血流が悪くなるために引き起こされます。
高血糖状態が長期間持続して病態が進行すると、神経障害は自律神経にも及びます。
自律神経の障害は体温や血圧などがうまくコントロールできず、命に関わるような重篤な状態を引き起こす可能性があり、大変危険です。