糖尿病予備軍とは何かを学ぼう!放置するとどうなるかも詳しく解説

糖尿病予備軍とは何かを学ぼう!放置するとどうなるかも詳しく解説

糖尿病予備軍は糖尿病になる前段階の状態であるものの、自覚症状や身体の変化がまだ見られない場合が多く、危機感がいまいち芽生えないというケースも少なくありません。

しかし糖尿病予備軍の状態を放置すると、糖尿病へ移行する可能性があるだけでなく、心筋梗塞や脳卒中など命に関わる病気を招く場合もあります。

本記事では、糖尿病予備軍の悪化や糖尿病発症を防ぐために、今日から実践できる予防方法を医学的にやさしく解説します。

この記事でわかること
  • 糖尿病予備軍は、正常な血糖値から糖尿病へと移行する中間段階にあり、放置すると糖尿病へ進行する可能性が高い
  • 糖尿病予備軍の状態は、血管や臓器に少しずつ負担がかかり、動脈硬化や合併症発症の可能性が高まる
  • 体内でインスリンがうまく働かないインスリン抵抗性という状態や、インスリン分泌能力の低下が血糖値の上昇を招く
  • 糖尿病予備軍の状態を改善するためには、食事や運動など生活習慣の見直しが必要
  • 適切な対策ができると、糖尿病への移行を防ぎ健康的な生活を取り戻せる

健康診断で糖尿病予備軍と診断された人や遺伝的に糖尿病になる可能性が高い人、健康な身体を維持したい人は、以下の内容を確認して実践すると良いでしょう。

目次

糖尿病予備軍とは何かを正しく理解して糖尿病への進行を予防する

糖尿病予備軍とは、医学的には境界型糖尿病と呼ばれ、正常な血糖値と糖尿病の間にある中間的な状態のことを指します。

この段階では血液検査における空腹時の血糖値や、過去1〜2か月の平均的な血糖値を反映するヘモグロビンA1cの数値が基準値より少し高めであるものの、まだ糖尿病の診断基準には達していません。

しかし糖尿病予備軍の状態は、放置した場合毎年約5〜10%の人が糖尿病に進行すると報告されており、糖尿病を発症する前から心筋梗塞や脳梗塞などのリスクが上昇します。

空腹時の血糖値やヘモグロビンA1cがどの程度の値であると糖尿病予備軍に該当するのか、次の内容でまとめているため、自分の状態と照らし合わせて確認しておきましょう。

参考:糖尿病診療ガイドライン2024
糖尿病|厚生労働省
The natural history of progression from normal glucose tolerance to type 2 diabetes in the Baltimore Longitudinal Study of Aging

糖尿病予備軍の具体的な数値を確認し自分がどの状態にあるかを知る

自分の健康状態を正しく把握するためには、糖尿病予備軍と糖尿病の数値の違いを理解し、自分がどの状態に該当するのか正確に確認しておく必要があります。

糖尿病予備軍は医学的に境界型糖尿病と呼ばれる場合もあり、以下の境界型に該当した場合に医師の総合的な判断によって診断されます。

正常値正常高値境界型糖尿病型
空腹時血糖値~99mg/dL~109mg/dL~125mg/dL126mg/dL~
ヘモグロビンA1c~5.5%~5.9%~6.4%6.5%~

空腹時血糖値は8時間以上食事を摂らずに測った血糖値を示し、血糖値を下げるホルモンであるインスリンによって、身体が血糖値を下げる力をどれくらい保っているかの目安となります。

ヘモグロビンA1cは過去1〜2か月の平均的な血糖値を反映し、日々の変動に左右されないため、長期的な血糖管理の状態を把握できます。

糖尿病予備軍は血糖値が正常より高くなり始めた段階で、インスリンを分泌する膵臓の能力や、身体のインスリンに対する反応性が少し低下している状態です。

この状態を放置していると膵臓が疲弊してしまい、さらにインスリンを分泌する能力が下がったり、身体のインスリンに対する反応性が低下したりするという悪循環を招きます。

そのため糖尿病予備軍の段階から、生活習慣の見直しや改善を行ったか否かが、その後の健康寿命において重要になります。

参考:Role of beta-cell dysfunction, ectopic fat accumulation and insulin resistance in the pathogenesis of type 2 diabetes mellitus
膵β 細胞機能不全のメカニズム1.インスリン分泌と糖尿病におけるその破綻

糖尿病予備軍を放置するリスクと身体に与える影響をメカニズムから理解する

糖尿病予備軍のメカニズム。放置するリスクと身体に与える影響

先述した通り、糖尿病予備軍の状態を放置すると糖尿病に限らず、心筋梗塞や脳梗塞といった他の病気も発症する可能性が高まります。

なぜ糖尿病予備軍が血管や臓器にまで影響を及ぼすのか、そのメカニズムを以下にまとめました。

  1. 糖尿病予備軍のような血糖値が高めの状態が続くと、血液中の糖が血管の壁やタンパク質と結びつく
  2. 血管の弾力が失われて小さなキズが増えると、血管の内側に炎症や脂肪の沈着が起こって血管が硬くかつ狭くなり、動脈硬化が進行したり血流が悪化したりする

この血管への障害はさまざまな臓器に影響を及ぼし、結果として以下のような合併症を発症する可能性を高めます。

  • 心筋梗塞や脳梗塞
  • 腎臓の障害
  • 神経の障害
  • 目の血管への影響

参考:Advanced glycation end products (AGEs) and cardiovascular disease (CVD) in diabetes

糖尿病予備軍が糖尿病発症につながるメカニズムを医学的に理解する

糖尿病予備軍が糖尿病を招く可能性がある点は想像が容易である一方で、その具体的なメカニズムから発症の理由まで理解できている人は少ないです。

しかし糖尿病へ進行するメカニズムを知っていると、後に説明する生活習慣を改善するポイントの理解が進むため、この機会に学習しておきましょう。

糖尿病へ進行する理由内容
インスリン抵抗性1.血糖値が上昇すると膵臓からインスリンというホルモンが分泌され、血糖を細胞内に取り込ませて血糖値を下げる
2.糖尿病予備軍では筋肉や肝臓、脂肪組織などの細胞のインスリン反応性が低下するこの状態をインスリン抵抗性という
3.結果として、同じ量のインスリンでは血糖を下げきれなくなり、血糖値が高めに保たれる
インスリン分泌低下1.膵臓が頑張ってインスリンを多く分泌し、血糖をある程度コントロールする
2.長期間の高血糖状態やインスリン抵抗性により膵臓が疲弊すると、インスリンの分泌能力が低下する
3.さらに血糖値が上がる

糖尿病予備軍の状態が続くと高血糖が長期化し、上記の理由から血糖値を下げる能力が低下してしまいます。

これはさらなる高血糖状態を招き、糖尿病まで進行するという悪循環を招きます。

糖尿病予備軍を改善するための具体的な方法を今日から実践する

糖尿病予備軍を改善する方法

上記の内容を理解したうえで、実際に糖尿病予備軍の状態を改善するために今日からできる具体的な方法を医学的に説明していきます。

糖尿病予備軍を改善するための鍵は血糖値コントロールにあり、血糖値コントロールの基本は食事と運動習慣の改善です。

誰でも実践できて無理なく続けられる方法としては、以下のものがあります。

方法具体例
食後血糖値の急上昇を抑える食事・よく噛む、ゆっくり食べる
・野菜や海藻、きのこを先に食べる
・白米より玄米、パンは全粒粉やライ麦パンに置き換える
・糖質にはタンパク質、脂質を組み合わせる
食事の分量と回数を工夫する・腹八分目を意識する
・間食は控えめにする
・1日3食摂取する
適度な運動を取り入れる・エレベーターの代わりに階段を使う
・歩いて買い物に行く・散歩をする
運動のタイミングを考慮する・食後30分〜1時間で軽い運動をする
適度な休息をとる・毎日7時間前後の睡眠をとる
・深呼吸や趣味などでストレスを発散する

完璧を目指さず、自分に合った方法やストレスにならない方法を見つけて、少しずつ実践していくのが継続のコツです。

参考:Impact of Eating Speed on Muscle Mass in Older Patients With Type 2 Diabetes: A Prospective Study of KAMOGAWA-DM Cohort
A Protein/Lipid Preload Attenuates Glucose-Induced Endothelial Dysfunction in Individuals with Abnormal Glucose Tolerance
Breakfast Skipping is Positively Associated With Incidence of Type 2 Diabetes Mellitus: Evidence From the Aichi Workers’ Cohort Study

糖尿病予備軍は生活習慣を見直すサインであり見逃してはならない

糖尿病予備軍は生活習慣を見直すサイン

糖尿病予備軍と診断されると負の感情を抱きがちであるものの、決して手遅れを意味するものではなく、むしろ生活習慣を改善する貴重なチャンスです。

研究でも食事の見直しや運動習慣の導入、十分な睡眠やストレス管理といった生活習慣の改善により、糖尿病の発症リスクが約50%低下すると示されています。

この時期に行動を起こして健康的な身体を取り戻し、将来の合併症リスクを減少できる一方で、行動しなかった場合は自らの健康寿命を縮めてしまう可能性につながるのです。

診断されたときは恐怖心と同時に、まだ糖尿病ではないから大丈夫という感情を抱くかもしれません。

しかしそのまま現実を受け入れないでいると、状態はますます悪化し糖尿病の発症を招く可能性が高まります。

後になって後悔しないためにも、少しずつできるものから実践するのが重要です。

参考:Reduction in the incidence of type 2 diabetes with lifestyle intervention or metformin

糖尿病予備軍の状態を改善して健康な未来を目指しましょう!

健康診断で糖尿病予備軍と診断された人は、まだ予備軍であるという安心感から生活習慣の改善まで踏み出せない場合が多く、後になって後悔している人も珍しくありません。

実際に生活習慣の改善により糖尿病の発症リスクが半分まで低下するという報告があるように、日頃の食事や運動への気配りは血糖値のコントロールにおいて医学的に重要なのです。

糖尿病予備軍という診断は未来を変えるための重要な分岐点であり、この段階で行動を起こすと単なる病気予防にとどまらず、自分らしい人生を取り戻す第一歩にもなります。

将来の可能性を自分の手で狭めないためにも、糖尿病予備軍という状態を前向きにとらえ、上記の内容を実践していきましょう。

この記事の監修者

大学病院で糖尿病・内分泌内科の臨床医として経験を積み「リサーチマインドを持った診療」をモットーに日々研鑽を積んでまいりました。当院が少しでもあなた様のお役に立つことが出来れば幸いです。

■経歴
平成21年3月 金沢医科大学医学部医学科卒業
平成21年4月 杏林大学病院 初期臨床研修医
平成26年1月 金沢医科大学病院 糖尿病・内分泌内科学教室
平成30年4月 金沢医科大学病院 助教
平成30年9月 金沢医科大学大学院医学研究科 博士課程修了
令和3年1月 金沢医科大学病院学内講師
令和5年6月 Gran Clinic(石川県金沢市)院長

■所属学会
日本内科学会 認定医
日本糖尿病学会 専門医
日本抗加齢医学会 専門医
日本腎臓学会
日本内分泌学会

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