糖尿病の初期症状を見逃さない生活習慣と合併症を防ぐ予防医療を徹底解説!

糖尿病の初期症状。生活習慣と合併症を防ぐ予防医療

糖尿病はある日突然発症する病気ではなく、遺伝的因子に環境因子と加齢が加わり、ゆっくりと発症します。

糖尿病を発症するまでには、10年以上に渡る前駆状態の期間があるといわれています。

さらに、前駆状態にあっても自覚症状はほぼなく、健康診断等で測定する空腹時血糖値は正常である場合がほとんどです。

そのため初期症状を見逃し、合併症を発症してから糖尿病の診断を受ける人が多くいます。

糖尿病で最も問題なのは、病態の進行によって引き起こされる合併症です。

適切な治療を早い段階で受け、合併症を引き起こさないよう、糖尿病の初期症状を見逃さないようにしましょう。

この記事でわかること
  • 糖尿病の初期症状と原因
  • 糖尿病の初期症状を見逃さないための生活習慣
  • 糖尿病による合併症の進行を防ぐための予防医療

この記事では、病院を受診する目安についても解説をしているため、ぜひ参考にしてください。

目次

糖尿病の初期症状について知り早期に治療を開始し病気の進行を防ごう

糖尿病の初期症状。早期治療し病気の進行を防ごう

糖尿病自体は、生命に関わる病気ではありません。

早期からの適切な治療と生活習慣の改善によって、病状は安定します。

しかし、初期症状が見逃され治療が行われずに高血糖状態が持続すると、重篤な合併症を引き起こしかねません。

とくに糖尿病が進行し三大合併症を発症した場合は失明や下肢切断、人工透析を招き、生活の質が著しく低下する可能性があります。

糖尿病の治療において最も重要なのは、異常の早期発見と血糖値の適正なコントロールです。

糖尿病の三大合併症について、以下にまとめました。

糖尿病の三大合併症
糖尿病性網膜症眼の奥にある、網膜の毛細血管に障害をきたし発症する
進行すると眼底出血や網膜剥離を引き起こし、失明に至る可能性がある
糖尿病性腎症持続する高血糖により発症し、腎障害の進行とともに腎不全に至る
腎機能が正常の10〜15%以下になると、人工透析が必要となる
糖尿病性神経障害高血糖状態が持続し、全身の神経に障害が及ぶ状態
高血糖が持続すると、神経周囲の血管が傷つくだけでなく神経そのものの性質も変化するため、機能が低下する
神経とは運動神経や知覚神経、自律神経とさまざまあり、症状は患者ごとに異なる

糖尿病の初期症状について理解し、三大合併症が引き起こされる前に、自身の身体の異変に気づけるようにしましょう。

糖尿病の初期症状と原因

糖尿病の自覚症状

糖尿病の主な初期症状と原因について、以下にまとめました。

初期症状原因
口渇
(こうかつ)
・血液中のブドウ糖濃度が高くなるため、それを薄めようと細胞内の水分が浸透圧によって引き込まれ、細胞内脱水となる
・口腔内の粘膜も細胞内脱水となり唾液が産生されず、口渇を感じる
多飲、多尿・高血糖による細胞内脱水によって強い口渇を感じ、常に水分を欲し多飲となる
・多飲によって尿量が増え、多尿となる
・インスリン不足による高血糖状態は、本来尿細管で再吸収されるはずの水分やナトリウムが尿として排出される浸透圧利尿を招き、多尿となる
・糖尿病が進行すると、末梢神経障害によって神経因性膀胱が生じ、夜間頻尿をきたす
乾燥・高血糖による細胞内脱水や、自律神経の機能低下によって発汗が減少し、皮膚が乾燥する
しびれ・三大合併症の1つである糖尿病性神経障害の症状で、比較的初期から出現する
・末梢神経に糖の代謝物が蓄積されたり、神経への血流が悪くなったりして神経細胞が障害され、手足にしびれが生じる
倦怠感・高血糖が持続しインスリンの分泌不足や抵抗性が生じると、血液内のブドウ糖をエネルギー源として細胞内に吸収できなくなり、疲れやだるさを感じる

糖尿病の初期症状は痛みや苦しみを伴わないため、多くの人は見逃がしてしまい、受診に至りません。

初期症状を見逃さないためには、日々の生活で身体の変化に敏感になる必要があります。

糖尿病の初期症状を見逃さないために毎日の4つの生活習慣と病院受診の目安

初期症状を見逃さない。生活習慣と病院受診の目安

糖尿病の初期症状は、痛みなどの苦痛が伴うものではありません。

そのため、多くの人は自己判断で様子を見たり、見逃したりしてしまう傾向にあります。

しかし、初期症状が出現している時点で、すでにある程度糖尿病が進行している状態です。

初期症状が出現してからもそのまま放置し続けてしまうと、さらに病状は悪化していき、合併症を引き起こします。

糖尿病の進行を防ぐには、早期から治療を開始し、血糖値を適正にコントロールする必要があります。

糖尿病の初期症状を見逃さないための習慣を日々の生活に取り入れ、異変を早期に発見しましょう。

糖尿病の初期症状を見逃さないための習慣は、以下のとおりです。

  • 毎日体重を測定し記録する
  • 水分摂取量や尿回数を記録する
  • 皮膚状態を観察する
  • 活動の記録をする

それぞれの具体的な方法や、病院を受診する目安について説明します。

毎日体重を測定し記録する

毎日体重を測定し記録する

高血糖状態が持続すると、インスリンの分泌低下や抵抗性により、食事から摂取したブドウ糖をエネルギーとして活用できなくなります。

代わりに体内の脂肪や筋肉のタンパク質をエネルギー源として分解してしまうため、体重が減少します。

体重減少とは、ダイエットなどの意図的な体重コントロールを除いて、6〜12カ月で体重が4.5kgもしくは5%以上減少した場合のことです。

生活習慣を変えていないにも関わらず、半年間で70kgの人が3.5kg、60kgの人が3.0kg以上体重が減少した場合には医療機関を受診してください。

体重は毎日同じ時間に測定すると、より正確な変化が分かります。

体重減少は、糖尿病の進行や重症度の診断基準になるため、記録もしておきましょう。

最近では、アプリをインストールしたスマートフォンと接続すると、自動的にデータが転送される体重計もあります。

保存したデータはアプリで管理できるため、自分で記録する手間がなく、負担がありません。

自動的にグラフが作成され、長期的なデータも確認できます。

体重計がない人は、ベルトやズボンがゆるくなったと感じた場合、体重減少の可能性があるため、受診の目安にしてください。

水分摂取量や尿回数を記録する

水分摂取量や尿回数を記録。早期発見につながる

成人の必要な水分摂取量は、1日あたり1.2〜1.5L程度です。

水分を500mlのペットボトルや水筒で摂取すると、1日で何本分摂取したのか簡単に計算できます。

口渇によって多飲症状が出現すると、尿量は必然的に増加し、多尿となります。

水分摂取量と尿回数の記録

健康な成人の場合、1回の尿量は200〜400ml、1日の尿量は1000〜1500ml程度です。

一般的に多尿とは、1日に3000ml以上に尿量が増加した場合をいいます。

糖尿病による多尿は膀胱や尿道に問題がないため、1回の排尿量は正常です。

しかし、1日の尿量が増加するため尿回数は増え、夜間も起きるようになります。

排尿回数が起床から就寝の間に8回以上、就寝後に1回以上排尿に起きる場合は多尿になっている可能性が高く、受診が必要です。

水分摂取量や排尿回数は、意識していないと忘れてしまう傾向にあります。

水分摂取量や排尿回数の記録は、糖尿病初期症状の早期発見につながるため、ぜひ取り入れてください。

糖尿病の治療開始後、使用する薬剤によっては、糖を尿から排出させるために尿量が増える場合があります。

薬剤の効能や副作用については、医師や薬剤師から十分に説明を受けましょう。

皮膚状態を観察する

皮膚状態を観察する

糖尿病の三大合併症の1つが、糖尿病性神経障害です。

糖尿病性神経障害では、主に末梢神経が障害を受け、比較的初期から症状が出現します。

足先や足裏の違和感やしびれ、チクチクした細かく刺すような痛みなど症状はさまざまです。

末梢神経障害が出現すると、足の小さな傷や感染症に気づかない傾向があります。

創部が感染した状態で放置されると、壊疽(えそ)まで悪化し、下肢切断に至る可能性もあります。

身体の皮膚トラブルに早い段階で気づけるよう、毎日お風呂で全身の皮膚状態の観察をしましょう。

傷の周囲が赤く腫れていたり、滲出液が多かったりする場合は、創部が細菌感染している可能性が高いため、速やかに医療機関を受診してください。

活動の記録をする

活動の記録をする

インスリンの分泌不足や抵抗性によって高血糖を引き起こしている場合、血液中のブドウ糖はうまく細胞内に吸収されません。

そのため、活動に必要なエネルギーが不足し、疲れを感じるようになります。

動いていないのに疲れる、常に倦怠感があるという場合は、高血糖からくる症状の可能性が高いです。

1日の活動内容を簡単に記録するだけでも、疲労感の原因が把握できます。

とくに目立った活動や運動をしていないのに疲れが続いている、倦怠期が連日続いており何もする気が起きないという場合は、医療機関の受診が必要です。

これらの習慣は糖尿病の初期症状の早期発見にはもちろん、治療開始後も生活習慣の見直しに役立つため、ぜひ取り入れてください。

糖尿病の進行を防ぎ合併症を引き起こさないための予防医療

合併症を引き起こさない。進行を防ぐ予防医療

糖尿病と診断されても、適切な治療の継続によって通常と変わりない生活が送れたり、仕事を続けたりも可能です。

しかし、糖尿病は重症化するまで自覚症状が乏しく痛みなどの苦痛症状が出ないため、治療を自己中断してしまう人が多くいます。

治療の自己中断は重篤な合併症の発症につながるため、大変危険です。

糖尿病の進行は動脈硬化を悪化させ、心筋梗塞や脳卒中など命に関わる病気を招きます。

そして三大合併症による下肢切断や失明、人工透析は、これまでの生活を一変させてしまいます。

合併症を予防するためには、症状が無くても定期的な健康診断を受けるなどの予防医療がとても重要となります。

糖尿病の合併症を引き起こさないための主な予防医療は、以下の通りです。

合併症を引き起こさない予防医療
  • 定期的に健康診断や人間ドックを受ける
  • 採血結果を自分でも確認する
  • 眼科を定期的に受診する

それぞれの詳しい方法について、説明します。

健康診断や人間ドックを受ける

厚生労働省は、国民の健康の保持や疾病の予防を図るために、健康診断を受けるのは重要であるとしています。

高齢者の医療の確保に関する法律や労働安全衛生法においても、保険者や事業者に対して特定健診や健康診断の実施を義務付けています。

個人が任意で受ける任意健診の人間ドックは、法定健診の健康診断よりも精密な検査が行え、糖尿病をはじめとする生活習慣病やがんの早期発見に有効です。

健康診断や人間ドックは、継続して受けるとより異常の早期発見につながるため、可能な限り毎年受けるようにしましょう。

糖尿病と診断された人が受けるべき人間ドックのオプション検査を、以下にまとめました。

血圧脈波検査両手、両足の4カ所の血圧と脈波を同時に測定する
血管年齢を測定し、動脈硬化の程度を検査する
sd-LDLコレステロール検査採血で超悪玉コレステロールであるsd-LDLコレステロールの量を測定し、狭心症や心筋梗塞などのリスクの高さを検査する
頸動脈エコー検査頸動脈の血管壁や内腔の状態から動脈硬化の程度を診断
頸動脈の動脈硬化の評価は、全身の動脈硬化の指標となる
インスリン検査インスリン抵抗性の指数を診断
LOX-index検査動脈硬化の進行から、脳梗塞や心筋梗塞を発症するリスクを予測する血液検査
眼底、眼圧検査眼底鏡を使って、眼底の血管や視神経、網膜などの状態を調べる

糖尿病を発症し、高血糖の状態が慢性的に続くと、血管壁が傷つきコレステロールが蓄積します。

蓄積したコレステロールは、血管の内腔にプラークという塊を形成し動脈硬化を引き起こします。

動脈硬化の進行は、脳梗塞や心筋梗塞など生命に関わる重篤な病気を招くため、予防や進行の程度の把握が重要です。

しかし、動脈硬化の進行具合を調べるには、一般的な健康診断の採血だけでは不十分と言われています。

糖尿病と診断されている人は、動脈硬化のリスクが高いため、ぜひオプションによる追加検査を実施してください。

さらに、糖尿病の三大合併症の1つである糖尿病網膜症は、自覚症状がないまま進行する病気です。

糖尿病網膜症を早期発見するためには、一般的な視力検査に加えて、眼底検査をする必要があります。

眼底検査とは、眼球の奥にある眼底の状態を観察する検査のことです。

眼底には網膜や視神経、毛細血管などが存在しており、病気の影響を受けていると変化が現れます。

網膜の異常の早期発見は、失明を防ぐために重要です。

身体への負担が少ない検査のため、糖尿病の診断を受けている人は実施をおすすめします。

健康診断や人間ドックは受診して終わりではなく、結果をふまえて生活行動や食生活の見直しを図るのが最も大切です。

前回との比較や、病院に持参するなどの活用ができるため、結果は捨てずに保管しましょう。

2次検診の知らせが届いた場合は、詳しい検査の必要があるため、早急に医療機関を受診してください。

採血結果の確認

採血結果の確認。主治医と共有し自身でも理解する

糖尿病治療において重要なのは、適切な目標設定と、それに向けた日々の生活習慣や食生活の自己管理です。

目標が適切ではなかったり、目標を定めないがむしゃらな行動だったりした場合、自己管理の継続は困難といえます。

治療内容や血糖の目標値について主治医と共有し、自身でもしっかりと理解する必要があります。

一般的に、すでに糖尿病と診断されている場合のヘモグロビンA1cの目標値は、以下のとおりです。

ヘモグロビンA1c目標
6.0%未満血糖正常化を目指す際の目標
7.0%未満合併症予防のための目標
8.0%未満治療強化が困難な際の目標

現在の血糖値を知り、主治医と共に適切な目標値を定め、その値に向けて自己管理を行いましょう。

採血を実施した場合は結果用紙を請求し、受領後は保存するようにしてください。

前回より値が改善していた場合はどんな行動が良かったのか、逆に悪化していた場合は何を改善すべきかの振り返りが大切です。

眼科を定期受診する

糖尿病網膜症は、発病初期段階では自覚症状が現れません。

異変を早期に発見するためには、精密眼底検査を受ける必要があります。

精密眼底検査とは、散瞳薬を点眼し瞳の収縮を抑え、目に光を当てて眼球の内側を調べる検査のことです。

人間ドックのオプションで行われる眼底検査では、散瞳薬を使用しない場合が多いため、より眼底を広範囲に検査できるよう精密眼底検査の実施をおすすめします。

精密眼底検査では、ごく初期の小さな点状出血も発見できるといわれています。

糖尿病を発症後は、網膜症の診断がない場合も定期的に眼科に通院し、1年に1度は精密眼底検査を受けるようにしてください。

糖尿病の初期症状を見逃さず異常を早期発見し合併症予防しよう

糖尿病の初期症状は、痛みなどの苦痛が伴わないため、多くの人は見逃す傾向にあります。

しかし、初期症状が出現している時点で、すでに糖尿病はある程度進行している状態です。

初期症状が出現してからもそのまま放置し続けてしまうと、さらに病状は悪化が進み、重篤な合併症が引き起こされます。

初期症状を見逃さないためには、自分の身体の変化に敏感になる必要があります。

身体や生活の変化を記録し、可視化するのは、異常の早期発見にとても重要です。

糖尿病と診断された後も、今まで通りの生活が送れるよう異常の早期発見に努め、合併症を予防しましょう。

この記事の監修者

大学病院で糖尿病・内分泌内科の臨床医として経験を積み「リサーチマインドを持った診療」をモットーに日々研鑽を積んでまいりました。当院が少しでもあなた様のお役に立つことが出来れば幸いです。

■経歴
平成21年3月 金沢医科大学医学部医学科卒業
平成21年4月 杏林大学病院 初期臨床研修医
平成26年1月 金沢医科大学病院 糖尿病・内分泌内科学教室
平成30年4月 金沢医科大学病院 助教
平成30年9月 金沢医科大学大学院医学研究科 博士課程修了
令和3年1月 金沢医科大学病院学内講師
令和5年6月 Gran Clinic(石川県金沢市)院長

■所属学会
日本内科学会 認定医
日本糖尿病学会 専門医
日本抗加齢医学会 専門医
日本腎臓学会
日本内分泌学会

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