糖尿病治療の場でなぜ糖質制限が注目されているのかを専門的に解説

糖質制限。なぜ糖尿病治療の場で注目されているのかを解説

糖尿病治療をしていると思うように血糖値やHbA1cが改善しない、努力が検査結果に反映されないと悩む人もいるのではないでしょうか。

従来の糖尿病治療では総摂取カロリーの半分を糖質で補うとされていましたが、近年は糖質を制限する方がより効果的ではないかといわれています。

しかし糖質制限は正しい知識のもとで行うべき食事療法であり、誤った方法で行うと血糖コントロールの悪化を招きます。

食事療法として糖質制限を取り入れて血糖コントロールの改善を目指したい人は、あらかじめ糖尿病と食事、血糖値について正しい知識を備えておくのが大切です。

本記事では、糖尿病治療をするうえで糖質制限が注目されている理由や血糖コントロールに有効な正しい糖質制限の方法を専門的に解説します。

この記事でわかること
  • 糖が代謝される仕組みと糖尿病
  • 糖尿病と糖質制限の関係性
  • 糖質制限の種類と正しい方法
  • 糖質制限を継続させるために必要な工夫
  • 糖質制限の医学的根拠や今後の可能性

糖尿病治療の新たな選択肢として糖質制限を検討している人は、基本的知識として身につけておくとよいでしょう。

目次

糖尿病の基本的なメカニズムを身体の仕組みから理解する

糖尿病の基本的なメカニズム。身体の仕組みから理解する

糖尿病がどのような病気であるかを理解しないで糖質制限を行うと、低血糖や血糖コントロール悪化のリスクにつながります。

血糖コントロールを悪化させずに良好な経過を維持するには、糖尿病がどのような病気かを理解する必要があります。

糖尿病は1型糖尿病と2型糖尿病があり、それぞれ原因や治療法は異なるものの、どちらも正常な糖代謝ができずに高血糖が持続する病気です。

特に2型糖尿病は高血糖が持続するほど進行し、眼や腎臓、神経に合併症が起きて日常生活に支障をきたします。

糖尿病を治療しながら生活の質を保つには病気について正しく理解し、血糖値やHbA1cをうまくコントロールする必要があります。

糖尿病やその合併症に対する治療を理解するには、正常な糖代謝の仕組みから理解していきましょう。

人間は食事とホルモンの分泌によって血糖値を調整している

血糖値の調整。食事とホルモンの分泌

私たち人間は食事とホルモンの分泌により糖を代謝し、適切な血糖値を保ちながら生命を維持しています。

人間が適切な血糖値を保つために働いているホルモンは、主に3つです。

  • インクレチン
  • インスリン
  • グルカゴン

上記3種類のホルモンは、それぞれの役割に応じて分泌量を増やしたり減らしたりしながら血糖値を調整します。

小腸から分泌されるインクレチンは、血糖値を調整する司令塔となるホルモンです。

血糖値が上がったり下がったりするとインクレチンが反応し、インスリンやグルカゴンに司令を出して血糖を適正な濃度にするよう働きかけます。

インスリンは人間の身体で血糖を下げる作用をもつ唯一のホルモンで、膵臓のランゲルハンス島β細胞から分泌されます。

一方グルカゴン血糖値を上昇させる主要なホルモンで、同じく膵臓のランゲルハンス島α細胞から分泌されるものです。

上記に示した3種類のホルモンのうち1つが機能しなくなると、人間は血糖値を適正に維持できません。

なぜ血糖値が適正に保てなくなると、身体にとってよくないのでしょうか。

それは血糖値が脳や肝臓などの主要な臓器、筋肉などの骨格を働かせるのに欠かせないためです。

人間が生きていくうえで必要とされる血糖値は、空腹時で70〜100mg/dL、食後で140mg/dLとされています。

血糖値が70mg/dLを下回ると脳や神経系に十分な栄養が供給できず、身体が飢餓状態に陥ります。

このように血糖が不足して脳や神経系、筋肉などに十分な栄養が行き渡らない状態が低血糖です。

低血糖が進行すると生きていくのに必要な栄養を維持できず、生命維持そのものが難しくなってしまいます。

そのため私たち人間は1日の始まりとその中間、その日の活動を終えた夜に食事を摂っています。

食事には複数の栄養素が含まれていますが、パンやご飯に含まれる炭水化物は血糖として身体のエネルギーを構成する栄養源です。

炭水化物や糖質は口から取り込まれて胃で消化され、小腸に届くと消化酵素に分解されてブドウ糖(以下、グルコース)に姿を変えます。

グルコースは小腸の絨毛を経て毛細血管から吸収されると血糖になり、その血糖が血液中にどのくらいあるかの濃度を示したものが血糖値です。

小腸の毛細血管から取り込まれた血糖は全身の臓器に運ばれて脳や筋肉などに届けられますが、余分な血糖は吸収されずに血液中に溜まっていきます。

食事で糖質を摂りすぎたり、運動せずに糖を消化できなかったりして血液中の糖が過剰になると、高血糖と呼ばれる状態に陥ります。

高血糖とは、血管内に血糖値が溢れた結果、血液がドロドロになって血管に傷がついてしまう状態のことです。

ドロドロになった血液は血管内をうまく通り抜けられず、身体の隅々まで血液が行き渡らなくなり、血流障害を起こします。

ほかにもドロドロの血液が血管の壁に負担をかけ、血管が硬くなったり血管の壁が傷ついたりします。

そこで血糖が過剰にならないよう働くのが、小腸から分泌されるインクレチンというホルモンです。

インクレチンは膵臓のβ細胞に働きかけてインスリンの分泌を促したり、食欲を抑えて高血糖を防いだりする作用があります。

グルコースが小腸から吸収される際、血糖値の急上昇を防ぐために膵臓に司令を出してインスリンの分泌を促します。

インスリンは血糖が脳や筋肉、肝臓などに供給されるよう、細胞に血糖を取り込ませる働きをするホルモンです。

インクレチンから指令を受け取った膵臓はインスリンを分泌させて、血糖を全身の細胞に供給させながら適正な値になるよう調整します。

上記に示したメカニズムは、身体に必要な血糖値の量を食事で補えたときに起こるものです。

しかし何らかの原因で食事が摂取できないとき、人間は自分の身体で血糖値を上げようとする仕組みが働きます。

そこでポイントとなるのがインクレチンとグルカゴン、肝臓の関係です。

グルカゴンはインスリンと正反対の働きをするホルモンで、肝臓に貯蔵されているグリコーゲンを取り出して血液中に放出させます。

グリコーゲンは肝臓に蓄えられている糖分で、食べ物を摂取できないなどの状況に陥った際のエネルギー源です。

グルカゴンが肝臓を刺激してグリコーゲンが血液中に放出されると、血糖に姿を変えて一時的ではあるものの血糖値が維持されます。

このように人間の身体は食事とインクレチン、インスリンとグルカゴンの分泌を調整しながら血糖値を一定に保っています。

インスリンの分泌状態に異常が起きると糖尿病を発症する

インスリンの分泌状態。異常が起きると糖尿病を発症

インクレチンやインスリン、グルカゴンのうちインスリン分泌に異常が生じた結果、血糖値を適切に保てなくなった状態が糖尿病です。

糖尿病は1型糖尿病と2型糖尿病に分類され、それぞれ病気の原因や治療法が異なります。

1型糖尿病の原因は免疫システムの異常、2型糖尿病の原因は糖質の過剰摂取や運動不足といった生活習慣によるものがほとんどです。

免疫システムの異常によって自力でインスリンの分泌ができない1型糖尿病は、注射でインスリンを補う治療を一生涯続けます。

対して生活習慣や食生活の乱れが原因で起こる2型糖尿病は、毎日の食生活や睡眠サイクルの変化といった生活リズムの影響を受けるのが特徴です。

正常の糖代謝ができなくなる2型糖尿病は、血糖値の変動やインスリン抵抗性と深く関わっています。

無意識のうちに糖質を多く摂取したり、運動不足になったりして長期間にわたり不要な糖質が血液中に蓄積すると血糖値の乱高下を招きます。

血糖値の乱高下とは、食後に急上昇した血糖値が、正常値に戻そうと働くインスリンの大量分泌によって急降下する現象のことです。

身体に必要量を超える血糖が蓄積した状態が続いたり頻繁に起きたりすると、身体は正常な血糖値を維持しようとインスリンを分泌します。

インスリンには基礎分泌追加分泌があり、基礎分泌は24時間常に微量のインスリンを分泌して血糖値を一定に保ちます。

追加分泌は食事やストレスなどの刺激で血糖値が上がったときに、血糖値を元の値に戻そうと一気に多量のインスリンを分泌する働きです。

糖質の多い食事や運動不足によってインスリンの追加分泌が増えた結果、膵臓に負担がかかります。

膵臓の機能が弱まるとインスリンの追加分泌が遅れたり分泌量が減少したりして、自力で血糖を下げられなくなります。

このように栄養バランスの偏り運動不足といった生活習慣の乱れが膵臓の機能を低下させた結果、血糖を処理できなくなってしまうのが2型糖尿病です。

2型糖尿病は生活因子に加えて、インスリン抵抗性やインスリン分泌機能そのものに関わる遺伝因子との関連性も指摘されています。

インスリン抵抗性とは、インスリンが分泌されてもその標的となる細胞がインスリンに対してうまく反応できない状態のことです。

2型糖尿病は初期症状に乏しく、そのまま合併症を併発して進行するケースが少なくありません。

さらに2型糖尿病になり、自力で血糖値を調整できないまま長期間過ごしていると、血液中の糖が増加して全身の血流が悪くなったり動脈硬化が進行したりします。

それによって合併症の進行に加えて動脈硬化や高血圧が進行し、心筋梗塞や狭心症、脳梗塞といった生活習慣病に発展します。

このように2型糖尿病は、病気の進行だけでなくさまざまな病気のリスクを併せ持つ疾患です。

糖尿病やその合併症の進行を可能な限り抑制できるよう、早期発見はもちろん日頃からの自分の血糖値にも気を配ってみてください。

糖質制限は血糖値の変動を抑制するために用いられる

糖質制限。血糖値の変動を抑制する

前述したように糖質摂取量と深く関わりがある糖尿病の治療や予防で大切なのは、血糖値の安定化です。

糖尿病治療では、はじめに血糖値の変動を抑制したり食後高血糖を防いだりするための食事指導を実施します。

糖尿病の食事療法は適切な摂取カロリーと栄養バランスを重視する方法が一般的ですが、近年では糖質制限も活用されています。

しかし糖質制限は単に炭水化物や糖質を控えるとよいわけではなく、病気の特性を理解して正しく実施しなければ意味がありません。

糖質制限を始めたいと考えている人は、正しい方法やほかの治療との組み合わせについてよく理解しておきましょう。

糖質制限は血糖値の急上昇を防ぐための基本的な食事療法である

血糖値の急上昇を防ぐ。糖質制限は基本的な食事療法

糖質制限とは、文字の通り身体に取り入れる糖質を可能な限り少なくする食事療法のことです。

糖質は私たち人間が生きるうえで欠かせない栄養素ですが、過度に摂取すると高血糖を起こします。

食事によって糖質を制限するのは、血糖値が正常より高くなる糖尿病を治療したり予防したりするのに効果的とされています。

その理由は糖質を抑えた食事を摂取すると身体に取り込まれる糖質が抑えられ、食後の高血糖とそれに伴う膵臓の負担が軽減されるためです。

さらに糖質制限によって食後高血糖が抑えられると、血糖コントロールの安定化につながり、将来的に合併症も予防できます。

ただし糖尿病治療や予防を目的とする糖質制限は、糖質の総摂取量はもちろん身体が糖質を吸収する速度も考慮する必要があります。

糖質は構造上の違いから単糖類や二糖類、ショ糖などに分類されており、それぞれ身体に取り込まれる速さが異なるのが特徴です。

食べ物に含まれる糖質はそれぞれ身体に取り込まれる速さが異なり、その糖が身体に吸収される速さをGI値といいます。

GI値が低いほど糖質は体内にゆっくり取り込まれ、反対に高い場合は速く身体に取り込まれます。

この仕組みをうまく利用して身体に必要な糖質量を調整しながら摂取するのが、正しい糖質制限の方法です。

糖質は摂りすぎると高血糖になる一方、過度に制限すると低血糖を起こし、身体が飢餓状態に陥ります。

低血糖に陥らないよう自分に適した糖質の総摂取量を意識して、無理なく続けられる程度の量に制限するのが大切です。

糖質制限は血糖値の変動を抑制させるのが目的である

糖質制限の目的。血糖値の変動を抑制させる

糖尿病に対する糖質制限は、無理なく糖質摂取量を減らし、血糖値の変動を抑えるのが目的です。

そのためには、自分に必要な総エネルギー摂取量糖質の総摂取量を認識しておく必要があります。

1日に必要な糖質摂取量は身長や体重、身体活動レベルなどの条件から算出した総エネルギー量をもとに定めます。

糖質の総摂取量や総エネルギー量はインターネットでも調べられますが、糖尿病患者の場合は血糖コントロールなども考慮しなければなりません。

糖尿病の食事療法として糖質制限を行う場合は、かかりつけの医師や栄養士からの指導を受けてから開始しましょう。

自分に必要な糖質の量と総エネルギー量を医師や栄養士と一緒に決めて、その日の食事内容を組み立てていきます。

食事を組み立てる際に大切なのは各栄養素のバランスと食品の糖質含有量、そして自分の血糖値反応に応じた食材の調整です。

健康な身体づくりには糖質だけでなくビタミンやたんぱく質、食物繊維といった栄養素も欠かせません。

特にたんぱく質は身体の骨格形成に必要な栄養素であり、1日に必要な摂取量も定められています。

たんぱく質と同様に食物繊維も身体の調子を整えるのに必要不可欠で、1日に必要な摂取量が定められています。

1日で必要なたんぱく質は男女とも体重1キロあたり0.8グラム、食物繊維の必要量は成人男性は21グラム以上、女性は18グラム以上です。

食物繊維は野菜や果物、海藻類などに多く含まれているものの、多くの人は摂取量が足りていない栄養素といわれています。

特に海藻やきのこ類に含まれる水溶性食物繊維は、腸内でコレステロールや不要な脂質を絡め取り、便として排泄します。

水溶性食物繊維は腸の中でゲル状に形を変える特徴から、糖質の吸収を遅らせて食後の高血糖を抑制するのに効果的です。

そしてたんぱく質は体内への脂質の蓄積を防ぐだけでなく、筋肉を作ったり発達させたりして基礎代謝を維持します。

糖質制限によって筋肉を作る糖質を制限した場合、糖質が不足している分をたんぱく質で補います。

そのため糖質制限を行う際には、糖質の制限量に応じてたんぱく質の摂取量も調整しなければなりません。

このように単に糖質を制限した食品だけに意識を向けるのではなく、食事のバランス全体に気を配りながら1日の献立を組み立てていきましょう。

そして食事の組み立てを行う際に欠かせないのが、摂取する糖質の選択です。

前述したように糖質はそれぞれの食材のGI値によって、身体に吸収されるスピードが異なります。

GI値が高い食べ物ほど身体が糖を吸収するスピードが早くなり、食後の血糖値が高くなるという仕組みを活用して糖質を選択します。

糖質が身体に吸収されるスピードを表すGI値は3段階に区別されており、身体に素早く吸収される糖質を含むものが高GI食品です。

高GI食品の主な例には食パンや白米といった炭水化物だけでなく、スナック菓子なども含まれます。

これらは食後に急激な血糖上昇を招くため、摂取量を可能な限り少なくするのが望ましい食材です。

そして低GI食品の主な例には、ライ麦や全粒粉といった穀物を原料とする食べ物やカリフラワーなどが該当します。

上記に挙げたライ麦や全粒粉はパンやパスタの減量にも用いられているため、高GI食品の食パンや中華麺の代用となるでしょう。

自分が日常的に好んで食べるものがどのGI値に該当するのかネットや食品交換表を活用し、調べて食事設計に反映するのが大切です。

パンや白米などの高GI食品は、ライ麦パンや蕎麦などの低GI食品に置き換える工夫をしてみると食事の質が上がります。

食品の置き換えに慣れてきた人はさらなるステップアップとして、使用する食品や油の選び方と使い方を工夫するとより効果的です。

医療従事者のもとで自分に合った糖質制限の方法を見つける

自分に合った糖質制限の方法。医療従事者のもとで見つける

糖質制限の種類は穏やかに糖質を抑えるものから徹底的に糖質を抑えるものまで、3段階に分けられています。

糖質制限の強さ次第で1日あたりの糖質摂取量が異なるため、個人の体質や病状を把握して適切な強度を選ばなければなりません。

さらに糖尿病の人が自己判断で糖質摂取量を決めると、想定していた効果が出なかったり反対に血糖コントロールが悪化したりするリスクがあります。

医療従事者のもとで自分に適した糖質制限の方法を見つけ、より安全に血糖コントロールを安定化させるのが大切です。

自分に見合った糖質制限を継続できるよう、糖質制限の種類やその方法についてしっかり理解しておきましょう。

緩やかな糖質制限は1日130グラム以下に糖質摂取量を制限する

初めて糖質制限をする人や低血糖に陥るリスクが高い人は、穏やかなタイプの糖質制限から始めるのが基本です。

緩やかな糖質制限は1日の糖質摂取量の目標を130グラム以下とし、普段の食事から少しずつ糖質を制限します。

具体的には炭水化物の摂取量を減らしたり、低GI食品に置き換えたりして1食あたりの糖質量を40グラム程度まで制限します。

1日3食に加えて間食の習慣がある人は、間食をやめるか糖質以外のものを食べるといった工夫が必要です。

食事で糖質量を調整する際は、ご飯10グラムにつき約3.6グラムの糖質が含まれているのを念頭において主食の量を調整しましょう。

一食あたりの糖質を40グラムにしようと計算する場合、一食で摂取するご飯の量は110グラムを限度にするとよいです。

パンを食べる場合は食パン4枚切りのもの1枚分、中華そばは約150グラム分が糖質40グラム分に該当するのを目安に調整しましょう。

中程度の糖質制限は1日100グラム以下に糖質摂取量を制限する

中程度の糖質制限。1日100グラム以下に制限

中程度の糖質制限は低血糖を起こすリスクがコントロールされている人や、糖尿病予防を目的とした人に適しています。

1日あたりの糖質の総摂取量は100グラム程度となるため、1食あたりの糖質摂取量は約33グラムです。

糖尿病患者が中程度の糖質制限を行なう場合には、低血糖を起こすリスクが低い人が適しています。

白米は100グラム以内に抑えるのが理想ですが、空腹が満たせない場合はGI値が低い玄米などを混ぜて食べるなどの工夫をします。

中程度の糖質制限は糖質を制限するだけでなく、運動も取り入れて糖質を消費するような心がけも必要です。

糖尿病の治療として中程度の糖質制限を取り入れる際は、血糖値の下がりすぎに気を配りながら自己血糖測定などを取り入れる必要もあるでしょう。

厳格な糖質制限は1日50グラム以下に糖質摂取量を制限する

最も厳格に糖質を制限した場合、1日に摂取する糖質の総摂取量は50グラムになります。

糖質の摂取量を1日50グラム以内にする場合、一食あたりの糖質摂取量は16グラム程度です。

ここまで徹底して糖質を抑えなければならない場合、一食の炭水化物を全て抜いたりご飯をカリフラワーなどの低GI食品に置き換えたりする必要があります。

そして余分に摂取した場合を考慮して、食後に有酸素運動を取り入れて積極的に糖質を消費しなければなりません。

糖質を1日50グラム以内に抑える場合、糖質からエネルギーを補給できなくなると糖質の代わりにケトン体が身体にエネルギーを供給します。

ケトン体は身体に蓄積された脂肪から作られる物質で、糖質をエネルギーにできないときに臨時のエネルギー源として働くものです。

しかしケトン体が作用する状況は身体が早急にエネルギーとしての糖質を求めている証拠であり、早急に血糖を補給しなくてはなりません。

糖尿病患者が治療として糖質制限を用いる場合、ここまで厳格に制限すると重症低血糖から昏睡状態に陥るリスクが高くなります。

特にインスリンや血糖降下薬を服用している人は低血糖に陥るリスクが高いため、安全に配慮した摂取量を医師や栄養士と相談して決めてください。

さらに糖質制限は単に糖質の摂取量を抑えるだけでなく、栄養バランスが偏らないようにたんぱく質やミネラル、ビタミンなどの栄養素も必要です。

それぞれの栄養素が偏らずに摂取するには、定期的な血液検査はもちろん献立を記録するなどして栄養バランスに偏りがないか見直すとよいでしょう。

そして医師や栄養士による食事内容や血糖値の状態の評価を受けながら、食事方法を見直す習慣づけも大切です。

糖質制限を継続させる秘訣は食材の選択と調理方法である

糖質制限を継続させる秘訣。食材の選択と調理方法

糖質制限を取り入れた食事療法はすぐに成果が出るものではなく、時間の経過とともに徐々に検査値に反映されます。

しかしこれまでの食生活の変化を受け入れられなかったり、継続できなかったりすると効果的な食事療法にはなりません。

糖質制限を継続して良好な血糖コントロールを保つ秘訣は食材の選択や組み合わせ、調理方法の工夫です。

調味料の使い方や置き換える食材の選択、その食材を美味しく食べる工夫をすると少ない糖質量でも食事を楽しめます。

さらに少ない糖質量で満腹感が得られる食材の組み合わせ方もあるため、献立を工夫して糖質制限食を楽しんでみてください。

糖質制限の実施時はGI値だけでなくGL値にも注目する

糖質を制限するときに気をつけなければならない点は、ほかの栄養素の摂取量を考慮した献立です。

糖質は筋肉のもとになったり脳に栄養を供給したりするのに欠かせない栄養素であるため、不足すると筋肉量の低下や脳神経系の栄養不足が懸念されます。

そこで糖質の代替として働くのが、たんぱく質野菜に含まれる微量の糖質です。

糖質の中でもきのこ類や海藻類、果物に多く含まれる水溶性食物繊維は、腸内環境を整えるとともに糖質の吸収を緩やかにします。

たんぱく質や脂質、ビタミン類などほかの栄養素をバランスよく組み合わせ、食べる順番を工夫するとGL値の軽減が期待できます。

GL値はグリセミック・ロードとも呼ばれ、一食分の炭水化物を摂取した場合に糖質が体内に吸収される速さを示したものです。

GL値は50グラムの食品に含まれる糖質が身体に取り込まれる速さを示すGI値と異なり、一食あたりに摂取する糖質の吸収量を示しています。

実際に毎日の献立を考えたり外食でメニューを選んだりするときは、主食となる炭水化物のGI値だけでなく、GL値にも注目します。

GL値は食材の組み合わせや調理法、食べる順番次第で低下させられるため、GL値を低くしたい人は献立づくりや調理法なども工夫するとよいでしょう。

主菜や副菜には水溶性食物繊維が豊富な野菜を多く取り入れる

主菜や副菜。水溶性食物繊維を取り入れる

一食の献立に欠かせない主菜と副菜には野菜をたっぷりと加えると、GL値を低下させられます。

野菜にはビタミンやミネラルなどの栄養素が豊富に含まれますが、特に大切な栄養素が水溶性食物繊維です。

水溶性食物繊維の効果は糖の吸収を穏やかにするだけではなく、腸内環境を改善したり満腹感を持続させたりする効果があります。

腸内にたどり着いた水溶性食物繊維は、腸内で糖質のほかにコレステロールも吸収し、糖とともに不要な脂肪を体外に排出します。

水溶性食物繊維は水分を吸収するとスポンジのように吸収するため、満腹感を持続させて炭水化物の摂取量を減らすのに効果的です。

さらに腸内にいる善玉菌は水溶性食物繊維をエサに活発化し、便の排泄を促したり免疫力を強化したりする効果もあります。

水溶性食物繊維を含む食べ物は、野菜のほかにもこんにゃくや海藻類、果物にも含まれます。

もち麦や大麦、全粒粉など一部の炭水化物にも水溶性食物繊維が含まれているものもあるため、高GI食品の置き換えとして活用するとよいでしょう。

特に水溶性食物繊維は、日常的に摂取量が不足する傾向にある栄養素とされています。

18〜64歳の成人が1日あたりに必要とする食物繊維の量は男性で21グラム以上女性で18グラム以上です。

献立を組み立てるときは、1日あたりに必要な食物繊維の目標摂取量にも目を向けてみてください。

たんぱく質を豊富に含む食材や良質な油を使用する

糖質制限食は炭水化物の量を減らしたり食物繊維の量を増やしたりするだけでなく、たんぱく質や脂質となる食材選びも大切です。

特に身体のエネルギーや骨格を作る脂質やたんぱく質は、摂取量と種類の両方に目を向けて食材を選ぶ必要があります。

身体づくりのもとになるたんぱく質は肉や魚、卵や大豆製品に多く含まれています。

それらの中に含まれるたんぱく質の中でも、人間の身体に欠かせないのが必須アミノ酸です。

必須アミノ酸は人間が体内で生成できない9つのアミノ酸を指しており、主にバリン、ロイシンといったものが挙げられます。

必須アミノ酸は食べ物から身体に取り込まれ、肝臓でアルブミンという栄養素に置き換えられます。

反対に非必須アミノ酸は人間の体内で合成できるアミノ酸であり、意識的に摂取する必要性はありません。

そして細胞を構成したりホルモンの分泌バランスを整えたりする脂質も、身体にとってよいものと悪いものがあります。

身体にとってよいとされている脂質は不飽和脂肪酸を多く含んだもので、MCTオイルやココナッツオイル、純正のオリーブオイルなどが該当します。

一方、悪玉(LDL)コレステロールや中性脂肪を増やす働きがある飽和脂肪酸が豊富に含まれる油は、身体によくない油です。

飽和脂肪酸を多く含む油の具体例には、マーガリンやサラダ油、使用済みの酸化した油などがあります。

この飽和脂肪酸と相反する働きをする不飽和脂肪酸は、血液中のLDLコレステロールや中性脂肪を低下させます。

そのため調理に用いる油を選択する場合は、不飽和脂肪酸を含んだオリーブオイルやグラスフェットバターなどを用いるとよいでしょう。

特に米油やなたね油は油自体に独特の風味やクセを含まない特性から、さまざまな料理で使用できます。

ただし不飽和脂肪酸を含んだ油には加熱すると酸化してしまい、不飽和脂肪酸の働きが低下するものもあります。

加熱を控えた方がよい種類の油の例に挙げられるのが、オメガ3脂肪酸を含んだアマニ油やえごま油、青魚にふくまれる油分です。

ほかにも洋食を調理する場面で使用頻度が多いオリーブオイルも、長時間加熱で酸化する油に含まれます。

上記に挙げたものに限らず、調理用油は加熱や使用期限を超えた保管などの要因で酸化するため、使用には工夫が必要です。

高温の調理が必要な場合は、熱に強いオリーブオイルや米油を使用したり、くっつき防止にはフッ素加工が施されたフライパンを使用したりするとよいでしょう。

そして種類に関係なく油の使用自体を極力控えて、蒸料理や茹でるといった調理方法を活用するのが大切です。

脂質以外に必要な栄養素とのバランスや必要摂取カロリーなどを意識して、栄養士と相談しながら効果的に油を活用してください。

糖質制限は根拠に基づいた食事療法として活用されている

糖質制限を活用した食事療法。医療現場で活用されている

糖質制限を活用した食事方法は、糖尿病治療に限らず、多くの生活習慣病に対する食事療法として医療現場で用いられています。

世界中の保健医療機関や大学による研究結果では、糖質制限が糖尿病だけでなく、動脈硬化や認知症などさまざまな疾患の治療や予防に有効であると発表されています。

イスラエル人を対象に糖質制限の有効性を調査したDIRECT試験では、糖質制限食の導入によってHbA1cの数値の改善や減量効果が明らかになりました。

そしてDIRECT試験を用いた研究結果は、糖質制限によってたんぱく質摂取量が増加した場合、腎機能に及ぼす影響についても言及しています。

糖尿病腎症をはじめ腎機能障害を抱える人にとって、たんぱく質は腎機能に負担をかける可能性がある栄養素です。

しかしDIRECT試験で腎機能障害をもつ人に対しても糖質制限を実施したところ、糖質制限食は腎機能の維持や改善に一定の効果を示しているのが明らかになりました。

上記で紹介した医学的根拠は、糖質制限についての数ある研究結果の一例に過ぎません。

糖質制限食の有効性については現在もなお研究が継続されており、今後も食事療法としてさまざまな疾患に対する使用が期待されています。

糖質制限を行う際は医師や栄養士への相談が必要不可欠である

前述したように糖質制限は制限の強さに種類があるだけでなく、糖尿病の進行度や血糖反応の個人差を考慮して行う必要があります。

特に糖尿病は血糖値を下げるために血糖下降薬を用いますが、血糖下降薬は血糖を下げる目的で処方する薬です。

血糖降下薬を処方された人の糖質制限は、低血糖を高めるリスクがあります。

さらに糖尿病患者の中には、糖尿病腎症を併発するまで病状が進行して腎機能が低下している人も珍しくありません。

腎機能障害を併発している場合は、状況に応じて塩分を摂取したりたんぱく質を制限したりする必要も出てきます。

このように疾患の進行具合と服用している薬、日常的な血糖値などの情報を加味して患者の状態に適した糖質量を医師や栄養士が決定します。

そして食事療法に糖質制限を取り入れた際には、定期的な受診と検査による糖質制限の評価も必要です。

イスラエルのワイツマン研究所では、食材に含まれる血糖値の上がり方には個人差があるという研究結果が明らかになりました。

たとえ同じ食材を食べたとしても、糖尿病患者一人ひとりの病状や体質によって血糖の上がり方は異なります。

つまり糖質制限を取り入れた食事療法に正しい方法はありますが、マニュアルやスタンダードな方法は存在しないということです。

そのため糖尿病やその他の病気の有無、年齢などからその患者に適した食事療法を医師や栄養士が考える必要があります。

そして実際に医師や栄養士の指導を通じて食事療法を実施し、糖質制限の方法が適しているかを必要な検査で評価します。

評価した結果をもとに必要に応じて治療計画を見直して、治療を継続するのが大切です。

糖尿病治療への新しいアプローチとして、糖質制限を試したい人は医師や栄養士に相談して自分に適した方法で行ってください。

糖質制限は糖尿病を正しく理解し持続的に行うのが大切である

糖質制限は糖尿病を正しく理解し持続的に行うのが大切

糖質制限は長期的に行うのはもちろん、自分の身体状況や生活状況が反映されていなければ意味がありません。

数週間から数ヶ月程度持続したが元の生活に戻ってしまったという場合、血糖コントロールを再び改善させるのは難しいでしょう。

血糖コントロールを良好に保ち、長期的によい経過を保つためには糖尿病を正しく理解したうえで糖質制限を継続する必要があります。

そこで活用して欲しいのがかかりつけ医や地域の医療相談、患者会などです。

特にかかりつけ医や糖尿病治療の拠点病院では、専門の栄養士や糖尿病療養指導士が一人ひとりの患者に応じた食事療法を提案しています。

自分の知識や判断で行うのではなく、病気をよく知る主治医や看護師、栄養士の力を借りて糖質制限を継続する姿勢が大切です。

当院では患者の個別性を重視した糖質制限指導を実施している

当院では糖質制限をはじめとする食事療法に力を入れており、一人ひとりの体質や検査データをもとに個人に見合った食事療法の指導を行っています。

生涯を通じて付き合っていく必要がある糖尿病は、食事療法をしっかりと習慣化していくのが大切です。

そのためには食事療法を正しく理解して栄養バランスの見直しを行うだけでなく、普段の生活の中にそれらを落とし込んでいかなければなりません。

特に高齢者の場合は、家族構成や1日の生活リズムにおいて周囲の協力体制を考慮したアドバイスの提供も必要です。

そこで当院では医師と栄養士だけにとどまらず、看護師をはじめとする多職種が連携して個別性を重視した食事療法を計画しています。

一人暮らしの人や共働き世帯、料理の得意不得意などに応じて簡単なレシピの提供や栄養指導なども行っています。

普段の食事や血糖コントロールについて悩んでいる人は、一人で抱え込まずに医師や看護師に相談してください。

この記事の監修者

大学病院で糖尿病・内分泌内科の臨床医として経験を積み「リサーチマインドを持った診療」をモットーに日々研鑽を積んでまいりました。当院が少しでもあなた様のお役に立つことが出来れば幸いです。

■経歴
平成21年3月 金沢医科大学医学部医学科卒業
平成21年4月 杏林大学病院 初期臨床研修医
平成26年1月 金沢医科大学病院 糖尿病・内分泌内科学教室
平成30年4月 金沢医科大学病院 助教
平成30年9月 金沢医科大学大学院医学研究科 博士課程修了
令和3年1月 金沢医科大学病院学内講師
令和5年6月 Gran Clinic(石川県金沢市)院長

■所属学会
日本内科学会 認定医
日本糖尿病学会 専門医
日本抗加齢医学会 専門医
日本腎臓学会
日本内分泌学会

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