空腹時血糖は、血中の糖質濃度を計測する方法の1つです。
血糖値が高いと糖尿病に罹患するリスクが増すため、検診の結果でご自身の状況を把握するのは健康維持において重要であるといえます。
単に血糖値として捉えるのではなく、空腹時血糖とはどのようなものであるかを理解し、血糖値リスクを正確に判断するのが大切です。
空腹時血糖を測定した結果による糖尿病リスクの分類や、空腹時血糖が上昇する原因、ならびに血糖値を下げる方法についても紹介します。
- 空腹時血糖とは10時間以上食事していない状態で計測する血糖値のこと
- 空腹時血糖の結果によって糖尿病リスクを3つの段階に分類できる
- 空腹時血糖が上昇する原因は多岐にわたっている
- 血糖値以外にも糖尿病リスクの検査をする方法はある
- 運動や食事への配慮で血糖値を下げる効果が得られる
- 空腹時血糖は低すぎても健康面で問題がある
今回の記事を参考にして、空腹時血糖に関して正確に理解し、ご自身の糖尿病リスクについて考えてみましょう。
空腹時血糖とは10時間以上食事をしない状態で計測する血糖値のこと
空腹時血糖とは、10時間以上食事をしない状態で計測する血糖値のことです。
食事をすると、健康な人でも一時的に血糖値が上昇します。
食事をして摂取した糖質により、血糖値の検査結果は変動するのが一般的です。
空腹時血糖は、食事による血糖値の変動に左右されない状態で計測される結果であるため、受診者の平常時の血糖値が得られます。
空腹時血糖について、以下の2点を中心に解説をします。
- 空腹時血糖は糖尿病リスクの判断に有効な数値
- 食後血糖値を併せて診断結果に用いるのが有効
空腹時血糖の意義や他のタイミングで計測する血糖値との違いを理解して、糖尿病リスクの判断に役立ててみてください。
空腹時血糖は糖尿病リスクの判断に有効な数値
空腹時血糖は、糖尿病リスクを判断するうえで有効な結果を示してくれます。
前述のとおり、空腹時血糖は10時間以上食事をしていない状態で計測するため、食事による血糖値の変動の影響を受けません。
食事だけでなく、運動や入浴などの後も、血糖値は変動します。
1日の中で最も血糖値の変動が少ないタイミングで得られる結果であるため、糖尿病リスクを正確に判断できるのが利点です。
糖尿病リスクの診断をするうえで、空腹時血糖の検査結果は欠かせないと考えられるほど、重要な指標として用いられます。
食後血糖値を併せて診断結果に用いるのが有効
糖尿病リスクの判断をする際には、空腹時血糖の結果が重要ですが、加えて食後血糖値の結果も踏まえて考察されます。
血糖値の異常について判断する際には、空腹時血糖の結果で平常時の状態の確認が欠かせません。
しかし、空腹時血糖が正常であったとしても、糖尿病に罹患している可能性はあります。
食事をした後に上昇した血糖値は、体内のインスリンの作用によって、正常値に低下します。
食後、約2時間が経過しても血糖値が下がらない場合は、インスリンの分泌が少なかったり、働きが不十分だったりしているのかもしれません。
食後血糖値は、食事の後の血糖値の変化を判断するのに有効な手段です。
インスリンの働きを判断するためには、空腹時血糖よりも食後血糖値を確認する必要があります。
糖尿病リスクを血糖値の結果で判断する場合は、空腹時血糖と食後血糖値を両方とも計測するのが一般的です。
空腹時血糖の結果によって糖尿病リスクを3段階に分類できる
空腹時血糖の検査結果により、糖尿病リスクを3段階に分類できます。
空腹時血糖は、糖尿病に罹患するリスク、あるいは現状罹患している可能性を判断するうえで重要な指標と考えられています。
空腹時血糖による糖尿病リスクの3分類は以下の通りです。
- 正常型:109mg/dl以下
- 境界型:110~125mg/dl
- 糖尿病型:126mg/dl以上
上記分類は目安であり、たとえば正常型であっても人によっては糖尿病に罹患している場合もあります。
それぞれの段階の特徴を以下で紹介するので、ご自身の糖尿病リスクを判断する際の参考にしてください。
糖尿病リスクは低い正常型
正常型は、空腹時血糖が109mg/dl以下の水準の場合を指します。
正常型の場合には、糖尿病リスクは低いと考えられますが、空腹時血糖が100mg/dlを超えている場合は油断できません。
正常型の中でも、100〜109mg/dlの場合は正常高値と表現される場合もあり、正常の範囲内であるものの、高めの血糖値であると考えられる結果です。
正常型の結果の場合は糖尿病リスクは低いものの、正常高値の場合には慎重に対応する必要があります。
糖尿病予備群の境界型
境界型は、空腹時血糖が110~125mg/dlの場合を指します。
境界型は糖尿病予備群とも表現され、現状では罹患していないとしても近い将来糖尿病になる可能性が高い水準です。
人によっては、すでに糖尿病になっている可能性もあります。
境界型に分類された場合には、糖尿病に関する他の検査を受けて、より正確な判断をするのが一般的です。
早めに対策を開始すると、糖尿病に罹患するリスクは軽減できるため、境界型の結果が得られた場合には医療機関に相談しながら適切な予防策を講じましょう。
早急な対処や治療を要する糖尿病型
糖尿病型は、空腹時血糖が126mg/dl以上の場合を指します。
糖尿病型に分類された場合には、すでに糖尿病に罹患している可能性が高いです。
糖尿病型に分類されたとしても、必ずしも糖尿病に罹患しているというわけではありません。
しかし、糖尿病ではなかったとしても近い将来罹患する可能性が極めて高いため、早急に対応する方がよいです。
糖尿病型の結果が得られた場合は、他の検査を併用して罹患の可能性を確認しながら、並行して治療を開始する必要があります。
空腹時血糖が高くなる要因は多岐にわたるため対処が難しい
空腹時血糖が高くなる要因には、さまざまなものがあると考えられています。
中には体質的な問題もあるため、人によっては治療を余儀なくされる場合もあります。
しかし、血糖値が上昇する理由の大半は生活習慣の乱れなど外因的な要素が関与している場合が多いです。
空腹時血糖が上昇する要因のうち、主なものを以下に5点紹介します。
- インスリン分泌量および働きの不足
- 血糖値を高めてしまう食事習慣
- 運動する機会の不足
- 日々受けるストレスが蓄積している
- 薬が血糖の上昇に影響することも
血糖値を上昇させず健康な状態を維持するため、空腹時血糖が上昇する要因について理解を深めましょう。
インスリン分泌量および働きの不足
空腹時血糖が上昇する理由としては、インスリンの分泌量や働きの不足が挙げられます。
血中の糖質が増えてくると、膵臓からインスリンが分泌され、糖質を細胞内に取り込みエネルギーに変換する手助けをします。
しかし、インスリンが不足すると血液内の糖質が処理されず蓄積されてしまい、血糖が下がりません。
体質的な要因の場合は、インスリンそのものを注射したり、GLP-1などインスリンの分泌を促す薬を注射したりするなど、外部から取り入れる必要があります。
血糖値を高めてしまう食事習慣
普段の食事が、血糖値を高める要因になる場合も多いです。
血糖値を高める食事といえば、炭水化物に偏ったメニューが挙げられます。
麺類単品メニューのような炭水化物が多い食事をしていると、高血糖につながってしまうリスクがあります。
食事の内容に加えて、間食や夜食など食事をするタイミングや回数も血糖値を高める要因になる場合が多いです。
炭水化物に偏ったメニューを好んでいる人や、間食や夜食を習慣化している人は、糖尿病リスクが高くなります。
運動する機会の不足
運動する習慣がないと、空腹時血糖が高くなる場合が多いです。
運動をしてエネルギーを消費すると、細胞は血中の糖質を吸収してエネルギーを補給しようと働きます。
一方運動をしないとエネルギーの消費が進まず、血中の糖質の分解が進まず血糖値が上昇する原因となります。
若い年代の頃は、基礎代謝が高いため運動をしなくてもエネルギー消費が十分におこなわれます。
運動する機会が少ない人は、エネルギー消費が不十分になり、空腹時血糖が高くなりやすいです。
日々受けるストレスが蓄積している
日々の生活でストレスを受けて蓄積したままになっていると、空腹時血糖が高くなってしまう場合があります。
人はストレスを感じると、交感神経が刺激されて血糖を上昇させる作用のある以下のホルモンを分泌します。
- グルカゴン
- アドレナリン
- 甲状腺ホルモン
- コルチゾール
さらに、ストレスを発散させようと暴飲暴食をしてしまう人もいるでしょう。
バランスの悪い食事は、血糖値を上昇させる要因になります。
社会生活を送る中では、さまざまなストレスを経験します。
休息や趣味の時間など、上手にストレスを解消する方法を身に着けないと、ストレスが蓄積してしまい血糖値の上昇だけでなくさまざまな悪影響を身体に与えてしまいかねません。
薬が血糖の上昇に影響することも
血糖値が上昇する要因として、服用している薬が影響する場合もあります。
特に、ステロイド薬は血糖値の上昇を招いてしまう薬と考えられています。
ステロイド薬の主な成分は、グルココルチコイドです。
グルココルチコイドは、インスリン拮抗ホルモンとも呼ばれ、インスリンに対する感受性を低下させて糖質からのエネルギー吸収を妨げる作用があります。
しかし、高血糖の観点でいえばリスクのある薬品であるため、服用する際は専門医と相談しながら適量を守るのが大切です。
空腹時血糖は、服用する薬が影響して上昇する場合もあるため、薬の服用にも十分配慮する必要があります。
空腹時血糖の数値以外で糖尿病のリスクを確認する検査はさまざまある
空腹時血糖の測定結果は、糖尿病リスクを判断するうえで重要な材料となります。
しかし、糖尿病が疑われる際は、血糖値に加えて他の検査方法も実施して総合的に判断するとさらに効果的です。
空腹時血糖以外の、糖尿病リスク検査方法の代表例を、以下に3例紹介します。
- 数か月間の血糖値の状況がわかるヘモグロビンA1c
- 糖質摂取後の血糖値を調べる75グラム経口ブドウ糖負荷試験
- アルブミンと糖の結合割合を検査するグリコアルブミン
それぞれの検査の特徴を理解して、ご自身の健康状況を判断する際に活用してください。
数か月間の血糖値の状況がわかるヘモグロビンA1c
ヘモグロビンA1cは、数か月間の血糖値の状況を判断できる検査です。
ヘモグロビンA1cでは、血液中の赤血球に存在するヘモグロビンのうち、ブドウ糖と結合したヘモグロビンの割合を測定します。
空腹時血糖と同様に、ヘモグロビンA1cでも以下のように糖尿病リスクの分類がされます。
- 正常値:5.5%以下
- 境界値:5.6~6.4%
- 糖尿病値:6.5%以上
境界値の結果が出た場合は、特定保健指導を受けるのが一般的です。
糖尿病値の結果となった場合には、医療機関を受診して治療を開始します。
糖質摂取後の血糖値を調べる75グラム経口ブドウ糖負荷試験
75グラム経口ブドウ糖負荷試験は、糖質摂取後の血糖値を調べる検査です。
空腹時血糖を測定した後、75gのブドウ糖が入ったソーダ水を飲み、しばらくしてから再度採血をして血糖値の測定を行います。
ブドウ糖摂取前後の血糖値の変化を踏まえて、糖尿病リスクを診断します。
75グラム経口ブドウ糖負荷試験の実施により、糖尿病リスクの診断精度を高める効果が期待できるでしょう。
75グラム経口ブドウ糖負荷試験と併せて、インスリンの検査を行うケースも多いです。
アルブミンと糖の結合割合を検査するグリコアルブミン
グリコアルブミンは、アルブミンと糖との結合割合を測定する検査です。
アルブミンとは、肝臓で作られて血液中や身体の各所にあるタンパク質の1種のことを指します。
アルブミンはさまざまな働きをするタンパク質で、栄養層などの運搬や細胞の形の保全を担う重要な成分です。
血液中のアルブミンは、血中の糖質と結合してグリコアルブミンになります。
血中の糖質量が多いと、グリコアルブミンも上昇する傾向があります。
グリコアルブミンの検査では、直近2週間前から採血時までの平均の血糖値が測定できると考えられています。
グリコアルブミンの基準値は11〜16%で、これより高ければ、血糖値が高い状態が続いていると判断できます。
高くなりすぎた空腹時血糖を運動や食事に留意して適正水準に下げよう
空腹時血糖が高い状態が継続すると、糖尿病に罹患するリスクが高くなります。
高くなりすぎた空腹時血糖を下げるためには、運動や食事について検討するのが有効です。
空腹時血糖を下げて適正な水準を保つため、最初は運動習慣と血糖値を上げない食事の仕方について理解して取り組みましょう。
空腹時血糖を測定した結果、高水準であった場合には、特に速やかに取り組む方がよいです。
糖尿病を予防するためにも、今回紹介する運動や食事への取り組み方を理解して実践してください。
運動習慣を取り入れる
空腹時血糖を下げるためには、運動習慣を取り入れるのが重要です。
継続的な運動の実施により、インスリンの働きが高まり血中の糖質分解が促進されます。
運動によりエネルギーを消費し、不足したエネルギーを補うため、糖質からのエネルギー転換が促進されるのも特徴です。
血糖値を下げるための運動としては、有酸素運動と筋力トレーニングが適しています。
有酸素運動とは長時間継続して行う運動のことで、ウォーキングやジョギング、エアロビクスや水泳などが該当します。
有酸素運動により血流が増えて、インスリンの働きが促進されて血糖値を下げる効果が期待できます。
筋力トレーニングとは、筋肉に負荷をかけて筋肉量を増やす運動のことです。
筋肉を増やすと、基礎代謝が上昇するためエネルギー消費量が増えて血中の糖質が効率よくエネルギーに転換されます。
有酸素運動や筋力トレーニングなどの運動を継続して実施していると、空腹時血糖が下がって糖尿病リスクを低減できます。
血糖値を高めないための食事を心がける
普段の食事において、血糖値を高めないための対策を取るのも重要です。
空腹時血糖は、食事の影響を大きく受けるため、食事の改善は血糖値の改善に直結します。
最初に食物繊維を豊富に含む野菜類を食べて、次にタンパク質の元となる肉や魚などを食べます。
最後に、ごはんや麺類などの主食を食べると、血糖値の上昇を抑えられます。
間食や夜食が増えると、血糖値の上昇だけでなく生活リズムの悪化により身体に悪影響が及ぶリスクが高いです。
生活途中の水分補給では、ジュースは極力減らして水やお茶など糖質が少ないものを優先的に選びましょう。
症状の進行度合いによっては服薬治療を選択する
空腹時血糖が糖尿病型に達しているなど、状態の進行度合いによっては服薬治療を選択する場合もあります。
服薬治療をする場合も、前述のような運動や食事の改善は並行して実施します。
医師の指示を受けながら、本人に最適な内容の治療を実施するのが大切です。
糖尿病に罹患すると、さまざまな合併症や症状が現れるため、病気にならないように適切な対策を取りましょう。
空腹時血糖は高いだけでなく低すぎても身体に悪影響が及ぶ
ここまで、空腹時血糖が高くなる場合の問題について紹介をしてきました。
しかし、血糖値は高いだけではなく低すぎる場合にも問題があるのを知らない方も多いかもしれません。
低血糖の状態が継続すると、高血糖とは異なるさまざまな異常が起こります。
空腹時血糖が低くなりすぎる状況について、以下の3点を中心に解説します。
- 冷や汗や動悸など症状はさまざまみられる
- 低血糖は服用する薬や不規則な生活が原因で起こる
- 糖質を積極的に摂取して対処する
高血糖だけでなく、低血糖になる問題点についても理解しておきましょう。
冷や汗や動悸など症状はさまざまみられる
空腹時血糖が低くなると、冷や汗や動悸などさまざまな症状が現れます。
低血糖は、空腹時血糖の数値によって以下のような分類と症状がみられます。
分類 | 血糖値 | 主な症状 |
---|---|---|
交感神経症状 | 70mg/dl以下 | 冷や汗、動悸、手指のふるえなど |
中枢神経症状 | 50mg/dl程度 | 脱力感や疲労感、目のかすみ、頭痛など |
大脳機能低下 | 50mg/dl以下 | 意識レベルの低下、昏睡状態など |
参考:糖尿病情報センター
低血糖の症状は人それぞれに現れ方が異なり、場合によっては気付かない間に低血糖の症状が現れているケースもあります。
空腹時血糖が低い場合には、低血糖のリスクを考慮しておくとよいでしょう。
低血糖は服用する薬や不規則な生活が原因で起こる
低血糖が起こる原因はさまざまありますが、服用する薬や不規則な生活が影響している場合が多いです。
不規則な時間での食事や十分な量を食べられない状態が継続するのも、低血糖につながる要因です。
空腹時に激しい運動を行ったり、いつもより厳しい運動を継続して行ったりしても、低血糖になる場合もあります。
人によって発生する原因が異なり、判断が難しい面があるため、身体に異常を感じた場合には早めに医療機関に相談するとよいでしょう。
糖質を積極的に摂取して対処する
低血糖の状態を改善するには、糖質を積極的に摂取するのが大切です。
手軽に糖質を摂取したい場合は、ブドウ糖などを含んだジュースや清涼飲料水を利用するのがよいでしょう。
中には人工甘味料を使って糖質を含んでいない商品もあるため、利用の際は糖質を含んでいるか確認する必要があります。
普段にはない倦怠感や動悸など、ご自身の身体に違和感を覚える場合は、早めに医療機関で診断を受ける方が無難です。
ご自身の空腹時血糖の数値を把握して規則正しい生活を送ろう
空腹時血糖とは、10時間以上食事をしない状態で計測する血糖値のことです。
糖尿病リスクを判断する際に有効な指標とされ、健康診断などさまざまな場面で計測されます。
空腹時血糖が高くなる要因としては、インスリンの異常や食生活および運動不足など、さまざまなものがあります。
空腹時血糖が高いと診断された場合には、糖尿病の可能性を判断するため、ヘモグロビンA1cなど他の検査の結果を見る場合が多いです。
空腹時血糖が高くなってしまった場合は、食事療法や運動療法などに取り組んで、改善をはかります。
症状の進行度合いによっては、すぐに服薬治療を開始する場合もあります。
空腹時血糖は、高いだけでなく低すぎる場合の問題についても理解するとよいでしょう。