血糖値を下げる運動療法について始め方やポイントを紹介

血糖値を下げる運動療法。始め方やポイントを紹介

糖尿病治療のひとつとして知られている運動療法ですが、どのような運動療法をおこなうと血糖値をより適正に維持できるのか悩んでいる人は少なくありません。

欧米では糖尿病の予防という目的だけでなく、がんなどの生活習慣病を予防する目的で日常的に運動習慣を取り入れている人が多いです。

しかし運動療法は1日の生活リズムの中に運動する時間を確保する必要があり、会社勤めや子育て中の人はなかなか継続できないと感じる人もいるでしょう。

ここでは糖尿病の治療方法のひとつでもある運動療法をおこなう上でのポイントや、継続するためにはどのような運動がおすすめなのかを紹介していきます。

この記事でわかること
  • 運動療法の目的
  • 運動療法の効果と始め方
  • 運動療法を活用して適正な血糖値を保つためのポイント
目次

糖尿病における運動療法の目的は食後の血糖値のコントロール

運動療法の目的。食後の血糖値のコントルール

糖尿病患者は健康な人と比較すると食後の血糖値が高くなるため、食後の高血糖を予防し血糖を適正に保つという目的で運動療法をおこないます。

運動療法の目的

運動療法を継続するのは簡単に感じますが、短期間で効果を実感できず途中で諦めてしまう人がいるのも事実です。

運動療法にはマシンを用いた運動や水泳だけでなく、エアロビクスなど多種多様なメニューがあり、スポーツジムに通う人や公園で景色を眺めながら運動を楽しむ人もいます。

どのような種類の運動をおこなうのかによって消費カロリーや効果を実感する期間に差がありますが、どの運動を選択するにしても継続できなければ意味がないのです。

では実際に糖尿病患者がおこなっている運動療法の種類について、紹介していきます。

運動療法の効果

運動療法の効果

運動療法は適正な血糖値を保つ以外にも、健康においてさまざまな効果を発揮します。

運動によって体内の筋肉を使うと、エネルギーのもととなる糖や遊離脂肪酸が消費され血糖コントロールやインスリンの働きが促進されるのです。

遊離脂肪酸は運動の際に筋肉に運ばれ、ミトコンドリアの働きによって脂肪からエネルギーに変換されます。

運動量が多ければ消費されるエネルギーが増え、結果的に脂質代謝の改善肥満の改善につながります。

糖質や脂質の代謝が活発化すると、最終的に血管にかかる負担が軽減され、動脈硬化の進行を防いだり高血圧を予防できたりするのです。

運動の種類には有酸素運動と無酸素運動がありますが、それぞれの運動方法が身体にもたらす効果は異なります。

有酸素運動

糖や脂肪を消費する運動、有酸素運動

有酸素運動は酸素を多く使い筋肉にある程度の負荷をかけ、糖や脂肪を消費する運動方法です。

主に軽いジョギングや水泳、サイクリングなどが有酸素運動に該当します。

有酸素運動をおこなう利点は、体内の糖や脂肪を燃料とするため血液中のLDLコレステロールや中性脂肪といった体脂肪の消費が可能です。

有酸素運動をおこなって脂肪や糖を消費するには、運動強度が小さく負荷が比較的軽い運動を約20分以上実施するとエネルギーの消費が始まります。

有酸素運動は1週間のうちに150分程度を目安とし、食後1〜2時間で運動するのが良いでしょう。

無酸素運動

運動強度が強く負荷の大きな運動、無酸素運動

無酸素運動は、短時間で運動強度が強く身体に対する負荷の大きな運動方法です。

運動の例としては、短距離走や筋力トレーニングなどが該当します。

無酸素運動の場合消費するエネルギー量が多いので、エネルギー供給量が消費カロリーに追いつかず体内で乳酸が生成されます。

乳酸は筋肉でエネルギーが作られる際に糖質が代謝、分解される過程で生成されるものです。

乳酸は酸性であるため筋肉に蓄積されると筋肉のpHが酸性に傾き、疲労を感じたり倦怠感を感じたりする原因となります。

無酸素運動をおこなうと筋肉量の増加や筋力を強める効果が得られますが、筋肉は短期的には変化しないため長期的に継続していく必要があります。

運動療法はしっかりとした準備とポイントを押さえるのが大切

運動療法の始め方。準備とポイントを押さえるのが大切

運動療法をはじめるにあたって、あらかじめ運動を始められる状態であるかを含めて自分の体調をチェックするのが大切です。

健康診断や人間ドックで異常を指摘されていなくても、いきなり運動を始めたのが心筋梗塞や脳卒中の引き金となってしまう可能性もあります。

また急に身体に負荷がかかる運動をはじめると疲労感を感じてしまい、運動そのものが継続できない人もいます。

血糖値を適正に保つためには運動の種類や自分に見合った運動強度を見つけて、無理なく継続できるようにするのが大切なのです。

では運動療法の始め方や運動をおこなうにあたってのポイントを解説していきます。

運動療法のはじめ方

運動を始めるにあたってメディカルチェック

血糖値を下げるための運動療法をおこなう場合でも糖尿病の運動療法をおこなう場合でも、運動を始めるにあたって必要なのがメディカルチェックです。

メディカルチェックによって、整形外科的疾患や運動制限を必要とする疾患があるかどうかがわかります。

特に長い間高血糖を指摘されていたり、健康診断の結果で血糖値に関して「要経過観察」という結果が続いていたりした人は、心血管系の疾患が隠れていないかを調べるのが大切です。

もともと心血管系や腎臓、肝臓などに疾患を抱えている人は、主治医に運動療法の可否とどの程度の負荷を身体にかけられるのかを聞いておきましょう。

運動療法には有酸素運動と無酸素運動の2種類がありますが、どの程度行うかによって身体にかかる負荷が異なります。

有酸素運動

有酸素運動を始めるにあたって、身体に負荷をかける目安となるのが心拍数です。

有酸素運動をおこなう際は、以下の心拍数を参考に軽い運動から始めていきます。

  • 59歳以下:120回/分
  • 60歳以上:100回/分

また運動を始める場合におすすめなのがウォーキングやサイクリングといった軽い運動で、時間は15〜20分程度を目安に始めると良いでしょう。

感覚としては多少息切れがするものの、会話を楽しめる程度の負荷とするのが理想です。

無酸素運動

無酸素運動のなかでも血糖値を下げるために用いられるのが、レジスタンス運動です。

レジスタンス運動では、身体の主要な筋肉を鍛えるためのスクワットやダンベルを用いた動作をゆっくりとおこない、徐々に身体に負荷をかけていきます。

血糖値を下げる目的のみならず減量などを目的としている場合には、有酸素運動と組み合わせておこなうのが理想です。

有酸素運動と無酸素運動はどちらも筋肉のエネルギー源として糖質が使われますが、代謝の面では効果が異なるため両方を適宜、組み合わせておこなうのがよいでしょう。

運動する際のポイント

運動する際のポイント

血糖値を下げたり血圧を適正な値に保ったりする効果がある運動療法ですが、突発的に始めると身体に負荷がかかります。

運動をおこなう際には、以下の点を注意しながら運動を行いましょう。

心拍管理が簡単な運動から始める
  • 運動の強度と頻度
  • 運動の時間帯
  • 運動前のセルフチェック

運動前のセルフチェックは、運動中の体調不良などを予防するために非常に大切です。

運動の強度と頻度

運動の強度については「ややきつい」と感じる程度が良いとされていますが、運動中には1分間の心拍数をこまめにチェックする必要があります。

ウォーキングや軽いサイクリングなど身体への負荷が少ない種類の運動は、1分間の心拍数が緩やかに上がりますが、短距離走などの激しい運動は1分間の心拍数が急上昇します。

そのため、運動前の安静時に心拍数を測っておき、運動中もこまめに心拍数を測定して運動中の心拍数との比較も大切です。

運動時の心拍数が安静時の心拍数と比較してあまりにも早まっている場合には、心臓への負担を考慮して運動の強度を落としましょう。

運動を始めたばかりの人は、比較的心拍数のコントロールが容易にできるようなウォーキングやヨガなどから始めるのがおすすめです。

運動の時間帯

運動は1回につき20〜60分を目安として、1週間でトータル150分以上となるような運動時間に設定します。

毎日運動をする必要はないものの理想的な運動の頻度は週3回で、1週間のうち全く運動をしない日が2日以上続かないようにすると良いでしょう。

運動を開始する時間帯は食後の血糖値が上がり始める食後1〜2時間を目安とし、逆に食前に運動するのは望ましくありません。

食前の運動を避けた方がよい理由としては、食前は血液中の糖が少ない状態にあるためです。

平常時の血糖と比較すると食前の血糖は低く、運動でさらに糖を消費すると結果的に低血糖になる可能性があります。

運動前のセルフチェック

自分の体調をしっかり把握しておく

運動療法をおこなうにあたって、自分の体調をしっかり把握しておく必要があります。

運動前にチェックするのが望ましい項目は、以下の通りです。

  • 血圧
  • 体温
  • 血糖値

何か「いつもと違うな」と感じている症状の変化の有無に加えて、上記の項目は身体の調子に限らず運動前にチェックしておきましょう。

血圧がいつもと比較して高かったり低かったりした場合は、その日は大事をとって運動せず休息を確保するといった選択をするのも大切です。

体温の場合も同様で発熱などの兆候があった場合は、ウイルスなどに感染している可能性もあるため悪化を防ぐために休息します。

運動中の低血糖症状に注意する

運動によって、血液中の糖分が減少すると低血糖を引き起こすリスクが高くなります。

低血糖状態になると自覚する症状を、下記にまとめました。

  • 冷や汗が出る
  • 脈が急激に速くなる
  • 動機や震え
  • 顔面蒼白
  • めまい
  • 頭痛
  • 目のかすみ など

上記の症状を放置した結果、低血糖が進行し昏睡やけいれんなどの中枢神経症状に発展するため、低血糖症状を自覚した際には直ちに運動を中止し糖分を摂取しましょう。

もともと糖尿病を患っている人は、運動前に血糖値を測定したり体調が悪い時には無理せず運動を休んだりという選択も必要です。

またスポーツジムなどで運動をしている人は、運動後に低血糖を引き起こす可能性もあります。

万が一に備えてスポーツジムなどの公共施設に行く場合は、ブドウ糖などの糖分を摂取できるものを持ち歩くとよいでしょう。

血糖値を下げる運動は無理のない範囲で継続を

運動療法は毎日継続するのが理想ではありますが、生活習慣が大きく変化してしまうほどの運動習慣をスケジュールに盛り込むとストレスを感じる場合があります。

長期間運動から遠ざかっている場合には、いきなり運動を始めると怪我や体調不良の原因にもなり得ます。

運動を始めたのはよいものの肉離れや捻挫などの怪我で生活に支障が出たり、逆に運動から遠ざかってしまう状況になったりするのは望ましくありません。

運動療法は無理なく継続できるよう習慣化するのが大切であり、食後の血糖値を下げて安定化を図るのがポイントです。

通勤や仕事中に歩く動作が多い人は万歩計を取り入れてみたり、買い物に行く時は車ではなく自転車や徒歩にしてみたりするだけでも運動になります。

テレビを見ながらストレッチをしてみるなど、日常にほんの少しの動作などを加えて無理のない範囲で継続できるような運動を始めてみましょう。

この記事の監修者

大学病院で糖尿病・内分泌内科の臨床医として経験を積み「リサーチマインドを持った診療」をモットーに日々研鑽を積んでまいりました。当院が少しでもあなた様のお役に立つことが出来れば幸いです。

■経歴
平成21年3月 金沢医科大学医学部医学科卒業
平成21年4月 杏林大学病院 初期臨床研修医
平成26年1月 金沢医科大学病院 糖尿病・内分泌内科学教室
平成30年4月 金沢医科大学病院 助教
平成30年9月 金沢医科大学大学院医学研究科 博士課程修了
令和3年1月 金沢医科大学病院学内講師
令和5年6月 Gran Clinic(石川県金沢市)院長

■所属学会
日本内科学会 認定医
日本糖尿病学会 専門医
日本抗加齢医学会 専門医
日本腎臓学会
日本内分泌学会

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