食後にやるだけ!血糖値を下げる運動の4つのポイントを解説します

血糖値を下げる運動。食後にやるだけ!4つのポイント

近年、健康診断で血糖値が高く、再検査を受けなければいけない人が増えています。

糖尿病なのではと感じている人や、血糖値が基準値付近で将来糖尿病になるのではと、不安に感じている人がいるのではないでしょうか。

血糖値が上がる仕組みや下げる方法などの知識は、糖尿病の予防につながります。

中でも運動は糖尿病と深く関わっており、運動不足は糖尿病の原因の1つです。

運動には血糖値を下げる効果もあり、さまざまな研究が行われています。

この記事では、血糖値を下げるために効果的な運動の種類や頻度、タイミングについてまとめました。

この記事でわかること
  • 糖尿病と運動の関連性
  • 血糖値が上がる仕組み
  • 血糖値を下げる運動の種類
  • 血糖値を下げる運動の頻度・量
  • 血糖値を下げる運動のタイミング

この記事を参考に、明日から運動を始めてみましょう。

目次

運動不足は血糖値の上昇につながる

運動不足。血糖値の上昇につながる

糖尿病の約95%を占める2型糖尿病の原因は、以下の通りです。

  • 肥満
  • 過食など食生活の乱れ
  • 運動不足

生活習慣が乱れると、2型糖尿病になる危険性が高まります。

世界保健機関(WHO)の調査の結果、日本人の3人に1人は運動不足であると明らかになりました。

運動不足の人は消費エネルギーが少ないために、肥満になる可能性が高まります。

2009年に行われた国民健康・栄養調査では、肥満者の割合は男性30.5%、女性20.8%に上ると報告がありました。

肥満はインスリンの効果を弱め、糖尿病発症リスクを高めます。

糖尿病の予防には、有酸素運動と筋力トレーニングが有効です。

有酸素運動により筋肉への血流が増えると、ブドウ糖が細胞に吸収されます。

そして、インスリンの効果が高まり、血糖値の低下につながるのです。

さらに運動は脂肪を燃焼させ、肥満の予防も期待できます。

運動は、血糖値低下と肥満予防効果があり、糖尿病の予防に最適です。

では、血糖値はどのようなメカニズムで変動するのでしょう。

参照元:WHOの運動推進グローバル計画 運動不足は世界に蔓延 日本でも3人に1人が運動不足 「世界行動計画」の日本語版を公開

肥満が血糖値の低下を妨げる要因になる

食事するすべての人の血糖値は、食事のたびに変動を繰り返しています。

本来、糖質は唾液(アミラーゼ)などの消化酵素によって分解され、グルコース(ブドウ糖)になります。

グルコースとは、人間が活動するためのエネルギーのことです。

分解されたグルコースは、血液に吸収され、全身へ運搬されます。

血液中のグルコース濃度が高まると、すい臓からインスリンが分泌され、グルコースを細胞の中に取り込みます。

細胞に取り込まれると、グルコースはエネルギーへと変換されるのです。

この一連の流れによって、血液中のグルコース濃度が低下すると同時に、血糖値も低下します。

運動不足や食生活の乱れによる肥満が原因となり、脂肪細胞に蓄積する中性脂肪量を増加させ、脂肪細胞の肥大が起こります。

脂肪細胞の肥大化により、インスリンの効果が発揮されないインスリン抵抗性を促進し、血糖値の低下を妨げるのです。

誰しも食後は血糖値が上昇しますが、インスリンの効果によってコントロールされています。

肥満状態ではインスリンの効果が十分発揮されず、血糖値は低下しません。

その結果、血液検査で高血糖と診断されてしまいます。

つまり、血糖値を下げるために肥満の改善が重要です。

参照元:Q1. 血糖値が上昇するメカニズムとは?

血糖値を下げるには有酸素運動と筋力トレーニングが重要

血糖値を下げる。有酸素運動と筋力トレーニング

これまで、糖尿病に対して食事や運動などさまざまな分野で研究が行われてきました。

運動に関する研究では、有酸素運動と筋力トレーニングが血糖値を下げると報告されています。

有酸素運動や筋力トレーニングは、よく耳にする言葉ではないでしょうか。

有酸素運動と筋力トレーニングは、それぞれ異なる特徴を持っています。

さらに、血糖値を下げる仕組みも異なります。

ここでは、有酸素運動と筋力トレーニングの特徴と血糖値を下げる仕組みを説明します。

有酸素運動は脂肪を燃焼させる

有酸素運動とは、以下のような筋肉への負荷が比較的軽い運動のことです。

  • ウォーキング
  • サイクリング
  • 水泳
  • エアロビクス
  • ランニング

有酸素運動は糖質や脂質をエネルギー源としており、脂肪燃焼効果があります。

有酸素運動により、血糖値を上昇させる要因である脂肪を減少させて、血糖値の上昇を防ぐのです。

他にも、有酸素運動には以下の病気の予防も期待できます。

  • 脂質異常
  • 高血圧
  • 動脈硬化

有酸素運動は、血糖値の上昇を防ぐだけでなく、さまざまな病気の予防効果が期待できます。

運動習慣のない人は、場所を選ばずに実施できるウォーキングやジョギングから始めてみるとよいでしょう。

筋力トレーニングはインスリンを分泌させ血糖値を下げる

筋力トレーニング。血糖値低下効果がある

筋力トレーニングは、筋肉に負荷をかけて筋肉を肥大化し、発揮できる力を向上させる運動です。

負荷のかけ方は、自重トレーニングウェイトトレーニングの2種類あります。

自重トレーニングとは、器具等を使わずに体重を負荷として使用するトレーニングのことです。

ウェイトトレーニングは、自重トレーニングと反対に、器具等を使って体重よりも重い負荷を筋肉にかけるトレーニングをいいます。

筋力トレーニングは、負荷量と回数によってトレーニングの効果が決まります。

自重トレーニングは、負荷量が少ないため、回数を多くしなければいけません。

運動が得意でない人やスポーツジムなどへ行ってまでトレーニングをしたくない人には、自重トレーニングが適しています。

ウェイトトレーニングは負荷量が多いため、少ない回数で自重トレーニングと同等の効果が期待できます。

ウェイトトレーニングは、器具をそろえたり保管したりする必要があるため、スポーツジムでのトレーニングが推奨されます。

有酸素運動のような長時間の運動が苦手な人や、自重トレーニングでは負荷が足りない人は、ウェイトトレーニングを選びましょう。

筋力トレーニングを行うと、筋肉は通常より多くのエネルギーを必要とし、グルコースの需要を高めます。

グルコースが細胞に吸収されると同時に、インスリン分泌量も増加し、血糖値が低下します。

有酸素運動は脂肪減少効果、筋力トレーニングはインスリン分泌促進による血糖値低下効果があり、糖尿病の予防に効果的です。

有酸素運動と筋力トレーニングともにむやみにやればよいわけではなく、適切な時間や負荷量、タイミングで行う必要があります。

血糖値を下げる運動は適切な時間と回数が決まっている

有酸素運動、筋力トレーニングともに推奨される適切な時間や負荷量があります。

糖尿病ガイドラインでは、週に150分以上の中等度から強度の運動が勧められています。

中等度から強度の運動は、どのような運動を指すのでしょうか。

有酸素運動はややきつい負荷量を目安にする

有酸素運動は、週150分以上の運動を自覚運動強度(RPE)の11から12を目安に行います。

自覚運動強度(RPE)の11から12は、ややきつい運動を指します。

自覚運動強度(RPE)

自覚的運動強度(RPE)とは、運動時の主観的負担度を数字で表したもののことです。

20
19非常にきつい
18
17かなりきつい
16
15きつい
14
13ややきつい
12
11楽である
10
9かなり楽である
8
7非常に楽である
6
引用元:自覚的運動強度の指標

ややきつい運動一覧

以下の運動は、負荷量ごとにまとめています。

活動内容1エクササイズに相当する時間
速歩き(平地、95〜100m/分程度)、水中運動、水中で柔軟体操、卓球15分
バドミントン、ゴルフ(クラブを自分で運ぶ、待ち時間を除く)13分
バレエ、モダン、ツイスト、ジャズ、タップ13分
ソフトボールまたは野球かなり速歩き(平地、107m/分)12分
自転車エルゴメーター:100ワット、軽い運動11分
ウェイトトレーニング、ジョギングと歩行の組み合わせ(ジョギング10分以下)、バスケットボール、水泳10分
引用元:身体活動・運動の単位

以上の運動を週に150分以上を目標に、実施していきましょう。

筋力トレーニングは週に2〜3日を目標に行う

血糖値を低下させる筋力トレーニングのポイントは、以下の通りです。

  • 運動の頻度は週に2〜3日
  • 上半身、下半身の主要な筋群を満遍なく含み5種類以上行う
  • 負荷量は8〜12回で限界に到達する量を1〜3セット行う

負荷量は、10〜15回繰り返せる程度から始め、徐々に増加させます。

スクワットを例に挙げると、簡単に15回できる人は、水を入れたペットボトルを持って行うなど負荷量の調節が必要です。

運動する時間が十分に取れない人は、全身の筋肉の約70%を占めている下半身のトレーニングが時間短縮につながります。

血糖値を下げるために、有酸素運動であればややきつい運動を週150分以上、筋力トレーニングであれば8〜12回で限界に到達する負荷で週に2〜3回の実施が推奨されています。

疲労やけがの危険性を考慮した、適切な負荷量で行ってください。

参照元:糖尿病ガイドライン2024-第4章運動療法

血糖値を下げるには食後30分後から運動を始めよう

運動のタイミングも重要。食後30分後から運動を始めよう

血糖値を下げるには、運動のタイミングも重要です。

血糖値が上昇するタイミングで運動すると、血糖値を効率的に下げられます。

空腹の状態で運動を行っても、自律神経の影響を受けるため、血糖値は低下しません。

血糖値は、食後30分経過時点から上昇し始め、食後1時間でピークを迎えます。

血糖値が上昇し始める食後30分経過時点に有酸素運動を開始すると、血糖値の上昇を抑えられます。

ただし食後の有酸素運動は、血糖値の急激な低下による低血糖の危険に注意が必要です。

いつもより食事量が少ない場合や、体調が優れない日は、運動負荷量を下げてください。

これから運動を始める人は、いきなり目標とする負荷量では行わず、低血糖症状の有無を確認してから負荷量を上げましょう。

参照元:食後に行う有酸素運動が血糖値の変動に及ぼす影響 -連続運動と間欠運動の比較

低血糖

血糖値が50mg/dL未満になると、脳などの中枢神経がエネルギー(糖)不足の状態になります。

その時に出る特有の症状を、低血糖症状といいます。

低血糖症状

  • 汗をかく
  • 手足が震える
  • 脈が速くなる
  • 頭痛
  • 目のかすみ
  • 生あくび

万が一低血糖症状が出現した際に摂取すると良いものは、以下の通りです。

  • ブドウ糖(10g)
  • ブドウ糖を含む清涼飲料水(150〜200ml)
  • 砂糖(20g)

これらいずれかを直ちに摂取し、安静にしてください。

安静にしたあと、15分以上経過しても低血糖症状が治まらない場合は、再度同じものを摂取しましょう。

参照元:低血糖とは-知りたい糖尿病

血糖値が上昇し始める食後30分経過後から有酸素運動を始めると、血糖値の上昇を抑えられます。

しかし、空腹での運動や運動後の低血糖症状の出現には注意が必要です。

短時間の運動でも血糖値が下がる

これまで有酸素運動は、連続20分以上の実施が推奨されてきました。

近年の研究では、短時間の細切れの運動でも効果があり、日常生活でも血糖値が低下すると判明しました。

研究の結果判明した内容は、以下の通りです。

9時間のデスクワーク中、1日1回30分の歩行に比べ、30分ごとに1分40秒の有酸素運動をする方が血糖値が37%減少するとわかりました。

立ち座りに歩行と同等の血糖値低下作用が期待できます。

3分間の階段昇降を2回実施すると血糖値が低下する

これらの研究は2013年以降に行われたものであり、20分以上の有酸素運動が推奨されてきた過去の研究を覆す結果となっています。

短時間の有酸素運動で血糖値が低下するため、普段運動する時間が取れない人でも血糖値改善効果が見込めます。

参照元:糖尿病に対する運動療法の最前線

血糖値が高い人は明日から運動を始めましょう

今回は、血糖値が高いと悩んでいる人へ向けて糖尿病を予防できる運動についてまとめました。

血糖値の低下に有効な運動の種類は、有酸素運動、筋力トレーニングの2つです。

有酸素運動は、週150分以上、ややきつい程度の負荷量で実施が推奨されます。

筋力トレーニングは、週に2〜3回、8〜12回で限界を迎える負荷量で実施が推奨されます。

どちらの運動も、血糖値が上昇し始める食後30分経過後から開始すると効果的です。

しかし食後の有酸素運動は、低血糖症状の出現に注意が必要です。

運動負荷量を調整し、無理のない負荷量から始めると低血糖の予防ができます。

近年の研究では、短時間の運動でも血糖値の低下が報告されており、忙しい人や運動が苦手な人でも糖尿病を予防ができるようになりました。

血糖値が高い人は、この記事を読んで、明日から少しずつ運動を始めてみてください。

この記事の監修者

大学病院で糖尿病・内分泌内科の臨床医として経験を積み「リサーチマインドを持った診療」をモットーに日々研鑽を積んでまいりました。当院が少しでもあなた様のお役に立つことが出来れば幸いです。

■経歴
平成21年3月 金沢医科大学医学部医学科卒業
平成21年4月 杏林大学病院 初期臨床研修医
平成26年1月 金沢医科大学病院 糖尿病・内分泌内科学教室
平成30年4月 金沢医科大学病院 助教
平成30年9月 金沢医科大学大学院医学研究科 博士課程修了
令和3年1月 金沢医科大学病院学内講師
令和5年6月 Gran Clinic(石川県金沢市)院長

■所属学会
日本内科学会 認定医
日本糖尿病学会 専門医
日本抗加齢医学会 専門医
日本腎臓学会
日本内分泌学会

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