糖尿病の合併症が怖い理由と発症を防ぐ対策を医学的に解説

糖尿病の合併症が怖い理由。発症を防ぐ対策を医学的に解説

健康診断で糖尿病と告げられると自覚症状がなく、病気の怖さがわからないながらも、将来に対する漠然とした不安を抱えるでしょう。

それは恐らく、合併症という言葉を耳にするためです。

合併症が具体的にどのような状態を指し、自分の身体に何が起きるのかわからないと、当然ながら不安は強まります。

本記事では、正しい知識を習得し、合併症発症を予防するための方法を解説します。

この記事でわかること
  • 糖尿病をコントロールできない状態が続くと、合併症を発症する
  • 合併症は血管がサビついたり、血の流れがドロドロになったりして、細い血管や太い血管が障害されて発症する
  • 糖尿病の代表的な合併症は目や腎臓、神経で発症する
  • 糖尿病の合併症から身体を守るためには、食事や運動、生活習慣に気を配る必要がある
  • 合併症の多くはほとんど初期症状がなく、定期的な検査が大切
  • それぞれの合併症で発現する可能性のある初期症状には特徴があり、理解しておくと早期発見に役立つ
  • 網膜症で発現する可能性のある初期症状は視力低下や目のかすみ、腎症では軽いむくみや疲労感、神経障害では足先のチクチク感やしびれなどがある
  • 血糖値や体調を記録するチェック表を活用すると、合併症の不安を緩和できる
  • 悲観せずに正しい知識を得て、日々の生活を工夫できると、糖尿病による合併症は予防できる

血糖コントロールに悩んでいる人や、家族に糖尿病患者がいる人は、本記事を読むと糖尿病と上手に付き合えるようになります。

目次

糖尿病をコントロールできない状態が続くと合併症を発症する

長い間、糖尿病がコントロールされない状態が続くと、少しずつ身体の中で目に見えない変化が進み合併症を発症します。

しかし糖尿病と診断されたばかりの人は、合併症と言われてもなかなか実感が湧かず、血糖コントロールを意識した行動ができない場合も多いです。

血糖値が高い状態は身体へどのような影響を及ぼし合併症を発症させるのか、その仕組みを以下にまとめたため、読んで糖尿病管理の重要性を押さえましょう。

合併症を発症する原因仕組み
血管がサビつく1.血液の中に砂糖が多いと、血管の壁が少しずつ傷つく2.放っておくとサビがたまるように、血管がもろくなる
血管に硬くベタベタした物質がくっつく1.余分な糖が身体の中のたんぱく質にくっついて、硬くベタベタした物質ができる
2.これが血管を弱くする
血の流れがドロドロになる1.糖尿病になると脂肪やコレステロールのバランスが崩れて、血液がドロドロになる
2.脂肪やコレステロールのかけらが血管にこびりつく

糖尿病は上記理由により動脈硬化を進め、細い血管の障害や太い血管の障害による合併症を引き起こします。

太い血管の障害による合併症は、心筋梗塞や脳梗塞などが代表的です。

細い血管の障害による合併症は、次の内容で詳しく説明するため確認してください。

参考:糖尿病合併症について|一般社団法人日本糖尿病学会
糖尿病の慢性合併症について知っておきましょう | 糖尿病情報センター
Advanced Glycation End Products and Diabetes Mellitus: Mechanisms and Perspectives – PMC

糖尿病の3大合併症が進行するときの症状にはそれぞれ特徴がある

糖尿病の3大合併症。進行するときの症状の特徴

糖尿病の代表的な合併症は目や腎臓、神経で発症し、進行するときはそれぞれの臓器に特徴的な症状がみられます。

1つ目の3大合併症である糖尿病網膜症は、目の奥にある小さな血管が徐々に壊れて、視力障害が発現する病気です。

網膜症は、以下の流れで症状が出現し進行します。

進行段階症状体内で起こる現象
初期・ほとんど無症状
・視力はほぼ正常
1.目の奥の小さな血管にこぶや小さな出血ができる
中期・物がかすんで見える
・細かい作業ができない
1.血管がだんだん細くなって、目の奥に酸素が届かなくなる
2.酸素の足りない部分が弱り、水ぶくれのようにむくむ
3.物を見るために一番大事な目の真ん中にむくみができる
末期・急な視力低下
・黒い点や糸状の物が飛んで見える
1.酸素不足を補うために目の奥に新しい血管が生えてくる
2.この新しい血管はもろく、ちょっとした刺激で出血する可能性が上がる

2つ目の三大合併症である糖尿病腎症は、腎臓の濾過装置が徐々に壊れ、尿中にたんぱく質が出る病気です。

腎症は以下の流れで進行し、症状が出現します。

進行段階症状体内で起こる現象
初期・ほぼ無症状1.血糖値が高い状態が続くと、腎臓のフィルターが過剰に働く
2.いずれ尿の中に少しだけたんぱく質が出るようになる
中期・むくみ
・疲労
1.腎臓のフィルターが傷んで、より多くのたんぱく質が漏れる
末期・食欲不振
・だるさ
・吐き気
・痒み
・尿量の変化
1.漏れ出したたんぱく質が腎臓に負担をかける
2.腎機能が大きく低下する

3つ目の三大合併症は、手足の感覚が徐々に失われたり、神経の痛みが出たりする糖尿病性神経障害です。

神経障害は手足といった末梢だけでなく、自律神経にも発現し日常生活に影響を与えます。

具体的に発現する症状と進行の流れは、以下です。

進行段階症状体内で起こる現象
初期・チクチク、焼けるような痛み
・足先を熱く感じる
・しびれ
・夜間の痛み
1.高血糖により神経細胞がむくむ
2.細い血管が傷み、神経に酸素や栄養が十分届かなくなる
3.小さい神経が最初にダメージを受ける
中期・しびれの拡大
・感覚が鈍くなる
・バランスが取れない
1.大きな神経が障害され、触覚や振動を受け取る感覚などの信号伝達が遅くなる
末期・立ちくらみ
・胃もたれ
・動悸
・尿意を感じない
1.自律神経が障害される


糖尿病の合併症は、初期には自覚症状がほとんどない場合が多いため、早期発見が将来の重症化を防ぐ鍵になります。

参考:糖尿病網膜症|日本眼科学会による病気の解説
Early glomerular hyperfiltration in insulin-dependent diabetics and late nephropathy: Scandinavian Journal of Clinical and Laboratory Investigation: Vol 46, No 3
The Pathobiology of Diabetic Complications | Diabetes | American Diabetes Association
Pathophysiology of Progressive Nephropathies | New England Journal of Medicine
Biochemistry and molecular cell biology of diabetic complications | Nature
糖尿病診療ガイドライン2024|一般社団法人日本糖尿病学会
Glucose neurotoxicity | Nature Reviews Neuroscience

合併症から身体を守るには食事や運動などの生活習慣改善が欠かせない

合併症から身体を守る。生活習慣改善が欠かせない

糖尿病の合併症から身体を守るためには、食事や運動などの生活習慣を見直し、血糖値をコントロールする必要があります。

以下では具体的に、食事や運動で気を付けるポイントや実践方法を紹介します。

生活習慣の改善事項ポイント具体例
食事血糖の急上昇を抑えられると、合併症予防につながる・最初に野菜を食べる
・糖質の量を意識し、血糖値が急上昇しない食品を選ぶ
・過食や間食を控える
運動運動は血糖値の上昇を抑え、血管や神経、筋肉の健康維持に役立つ・毎日30分程度のウォーキングや軽い筋トレをする
・長時間座り続けず、1時間に1回は立ったり歩いたりする
その他喫煙や過度の飲酒は、血管を障害するリスクを高める・禁煙
・節酒
・十分な睡眠をとる
・趣味でリラックスする

糖尿病による合併症は、血糖値のコントロール不良が長期化して発症します。

そのため予防には食事で血糖を急上昇させず、運動で血糖を下げ、日々の血糖値を管理する必要があります。

上記の具体例を参考にして、できる内容から実践しましょう。

参考:腎症 | 糖尿病情報センター
糖尿病の食事 | e-ヘルスネット(厚生労働省)
喫煙と糖尿病 | e-ヘルスネット(厚生労働省)
アルコールと糖尿病 | e-ヘルスネット(厚生労働省)
Stress Management Improves Long-Term Glycemic Control in Type 2 Diabetes | Diabetes Care | American Diabetes Association

合併症の初期症状を見逃さないためのチェックリストを活用する

初期症状を見逃さない。チェックリストを活用

自覚症状が少ない合併症の初期段階で、症状を見逃さないようにするためには、専門知識の習得が必要です。

以下では、専門知識がなくても早期発見できるように、チェックリストを作成しました。

現在気になる症状がある人や、重症化を防ぎたいと考えている人は、活用してください。

合併症セルフチェックポイント定期検査の目安
・物がかすむ
・物が歪んで見える
・視力低下
・視野の一部がぼやける
・光がちらつく
・年1回の眼底検査
腎臓・軽いむくみ
・疲労感
・年1回の尿検査
神経・足先のチクチク感やしびれ
・温度の変化を感じない
・傷や火傷に気付かない
・こむら返り
・毎日裸足で足チェック
・年1回の神経検査

合併症を早期発見するためには、チェックリストを使用して問題がなかったからと楽観視せず、定期的な検査を受ける必要があります。

糖尿病の三大合併症は、初期にはほとんど症状がなく、症状が出る頃には進行している場合が多いためです。

日常の小さな変化を意識しつつ、定期検査を習慣化する意識を持ちましょう。

参考:Diabetic Neuropathies | Diabetes Care | American Diabetes Association

KDIGO 2022 Clinical Practice Guideline for Diabetes Management in Chronic Kidney Disease – Kidney International

血糖値チェックや体調記録は糖尿病による合併症の不安を軽減できる

合併症の不安を軽減。血糖値チェックや体調記録

毎日の血糖値チェックや体調記録は、合併症の不安を軽減するうえで有効な方法です。

血糖値は測定しない限り肉眼的に確認できないため、生活習慣を見直すだけでは、その効果を実感できません。

食事や運動を改善してもまだ不安が残る人は、以下表を参考にチェック表を作成すると、不安が数値で把握できる安堵に変わります。

日付起床時朝食前昼食前夕食前就寝前体調メモ
9/20102110120130115夕食後に20分ウォーキング
9/2198108100105112甘い物控えめにした

こうしたチェック表の活用は不安を軽減する目的以外にも、病院受診時に以下の利点が得られます。

  • 変化の記録が一目でわかり、生活との関連が見えるため、病状の適切な判断につながる
  • 限られた診察時間で効率的に状況を共有できるため、より具体的なアドバイスを受けられる
  • 薬の変更や生活改善がどのくらい効いているかを、医師と一緒に客観的に確認できる

糖尿病の合併症を予防するための行動は未来の自分への投資

糖尿病と聞くと、合併症が怖いという不安な気持ちが強くなる人が多いものの、実際には多くの合併症は予防が可能です。

さらに合併症は必ず起こるものではなく、血糖コントロールや生活習慣の改善で、進行を防いだり遅らせたりできます。

血糖値を意識した食事や毎日の軽い運動、定期的な検査は面倒に感じる場面も多いでしょう。

しかしこれは、5年後や10年後の自分の身体を守る未来への投資なのです。

食事制限を悲観的に感じるよりも、これで合併症を遠ざけられると前向きに考えた方が、継続するストレスが減ります。

医師や家族、仲間と一緒に取り組むと楽しさも生まれるため、本記事の内容を伝えてみてください。

適切な知識を得て糖尿病と賢く付き合うと合併症の発症を防げる

糖尿病の合併症は必ず起こるものではなく、適切な知識をつけて上手に付き合うと、発症の予防は可能です。

具体的には、血糖値を意識した食事や無理のない運動、定期的な検査を継続できるかが鍵になります。

そのうえで医師の指導に基づいた治療を続けると、発症や進行を大幅に抑えられます。

さらに血糖値や体調、合併症の初期症状をチェックするリストの活用は、合併症の発症予防にとても役立つためおすすめです。

血糖コントロールで大切なのは、悲観せずに正しい知識を得て、日々の生活を工夫する点にあります。

その積み重ねが未来の自分を守り、不安なく過ごせる時間につながるため、本記事を通して正しい知識の習得から始めましょう。

この記事の監修者

大学病院で糖尿病・内分泌内科の臨床医として経験を積み「リサーチマインドを持った診療」をモットーに日々研鑽を積んでまいりました。当院が少しでもあなた様のお役に立つことが出来れば幸いです。

■経歴
平成21年3月 金沢医科大学医学部医学科卒業
平成21年4月 杏林大学病院 初期臨床研修医
平成26年1月 金沢医科大学病院 糖尿病・内分泌内科学教室
平成30年4月 金沢医科大学病院 助教
平成30年9月 金沢医科大学大学院医学研究科 博士課程修了
令和3年1月 金沢医科大学病院学内講師
令和5年6月 Gran Clinic(石川県金沢市)院長

■所属学会
日本内科学会 認定医
日本糖尿病学会 専門医
日本抗加齢医学会 専門医
日本腎臓学会
日本内分泌学会

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