インスリンを効果的に出す方法は何かを考える

インスリンを効果的に出す方法。日常生活のなかに多く存在

インスリンの分泌量を増やしたり保ったりする方法は、日常生活のなかに多く存在します。

糖尿病などの疾患によるインスリンの分泌量の低下が私たちにもたらす影響は、動脈硬化の進行や身体への酸化ストレスを招き、がんや心筋梗塞といった命に関わる病気のリスクにつながります。

このような命に関わる病気を防ぐには血糖コントロールを良好に保つ必要がありますが、そのためには日頃からインスリン分泌に関心を保つのが大切です。

糖尿病予備軍や糖尿病になった場合、血糖コントロールに必要不可欠なインスリンの分泌量を維持するにはどうしたらよいのでしょうか。

本記事では高血糖を防ぎながら、インスリン分泌を維持していくために必要な知識や生活習慣などを専門的に解説します。

この記事でわかること
  • 正常な身体におけるインスリン分泌について
  • インスリン分泌を促進させる食事の工夫
  • 運動療法を活用してインスリン分泌を促す方法
  • インスリン分泌を手助けする医学的アプローチ
  • 規則正しい生活習慣の重要性

糖尿病と診断された人だけでなく血糖値が心配な人も活用できるため、生活の中に取り入れてみてください。

目次

はじめに正常なインスリン分泌の仕組みを正しく理解する

正常なインスリン分泌の仕組み

インスリン分泌が正常な人と異常な人は、体内でインスリンを分泌して利用するまでの過程に違いがあります。

インスリン分泌に異常がある人は、インスリン自体の分泌量が減ったりインスリンの作用が弱まったりしてうまく血糖値をコントロールできません。

そのため糖尿病治療の基本は生活習慣の改善や内服薬を使用しながら、インスリンの分泌パターンや分泌量をコントロールします。

そして糖尿病を防ぐには正常なインスリン分泌の仕組みを知り、インスリンを効果的に分泌できる生活習慣を送るのが大切です。

そこでインスリンというホルモンの役目や分泌のメカニズム、糖尿病がインスリン分泌にどう影響を及ぼすのかを解説します。

インスリンは血糖値を下げる唯一のホルモンである

インスリンの基本となる役割は血糖値の調節ですが、血糖値を上げるホルモンと下げるホルモンによってちょうど良い値に保たれています。

血糖値を上げるホルモンにはグルカゴンや成長ホルモン、コルチゾールなどのホルモンがありますが、血糖値を下げるホルモンはインスリンのみです。

そのため人間はインスリンが分泌されない状態に陥ると血糖値が上がり続け、生命の危機に陥ります。

インスリンというホルモンは膵臓のランゲルハンス島β細胞で生成され、基礎分泌追加分泌という2種類の分泌方法によって体内に放出されています。

基礎分泌は体内の血糖が一定の濃度に保たれるよう調整する働きを担っており、日中夜問わず少量ずつ分泌され続けています。

そして追加分泌は主に食後に分泌され、血糖値を適正な値に戻し、高血糖を防ぐ役割を担っています。

私たちの身体はこの基礎分泌と追加分泌の両方がしっかりと分泌されて、ようやく適正な血糖値を保てるようにつくられています。

つまり良好な血糖値を維持するには、基礎分泌と追加分泌の双方に目を向ける必要があります。

食べ物に含まれる糖質やアミノ酸がインスリン分泌の引き金となる

インスリン分泌の引き金。糖質やアミノ酸

食後血糖を下げるインスリンの追加分泌を発生させるには、インスリンを分泌させる引き金が必要です。

食事後、必要な栄養素を吸収する過程が引き金となり、食事で上昇した血糖値を適正な値に戻します。

そこで重要な働きを担うのが、小腸です。

小腸は糖質やタンパク質といった栄養素を吸収し、体内に取り込まれる栄養素が過剰にならないよう抑制する働きも担います。

特に糖質が血液中で過剰になると、血液の粘稠度が増して血栓が作られる要因となるため、血糖が上がりすぎないように調整が必要です。

血糖を吸収する小腸ではインクレチンというホルモンが分泌されており、インクレチンがインスリン追加分泌の引き金となります。

食事により必要な糖質が小腸から吸収されると、糖質の吸収と同時に小腸からインクレチンが放出されます。

インクレチンの分泌が血糖を調整するきっかけとなり、インスリンの追加分泌が発生します。その後、脳の満腹中枢に働きかけ血糖を適正に保ちます。

さらにインスリン追加分泌はインクレチンによる指令だけでなく、アミノ酸の吸収も追加分泌発生のきっかけとなります。

たんぱく質に含まれるアミノ酸のなかでもグルタミンやアルギニンといった非必須アミノ酸は、筋肉や肝臓に届けられ、糖質と同様に身体の栄養源として働きます。

インスリン分泌の引き金となる非必須アミノ酸は体内で合成されますが、その材料となるのがフェニルアラニンという必須アミノ酸です。

必須アミノ酸は非必須アミノ酸と異なり、人体で合成できないタンパク質であるため、食事を通して摂取する必要があります。

フェニルアラニンは鶏むね肉マグロなどに含まれており、脳の正常な活動を支えてストレスを軽減する作用もあります。

しかし非必須アミノ酸のグルタミンやアルギニンはインスリン分泌の引き金にはなるものの、血糖値を上昇させる作用はありません。

そのため食後の高血糖を防ぎたい人や食後の血糖値が気になる人は、たんぱく質の摂取量に意識を向けるのも大切です。

上述した内容を踏まえて食事内容や摂取量の調整や、運動や医学的アプローチの活用を検討してみてください。

毎日の食事にちょっとした工夫を加えてインスリン分泌を促す

毎日の食事に工夫を加えてインスリン分泌を促す

インスリン分泌を効果的に保つには、栄養バランスを考えた献立の組み立てが重要です。

私たちが毎日口にする食事には炭水化物や脂質、たんぱく質の三大栄養素が含まれており、その三大栄養素こそが人間の身体をつくっています。

野菜や果物に含まれるビタミン類は三大栄養素が十分な力を発揮できるよう手助けしながら、身体の調子を整える役割も担います。

インスリン分泌を促すためには、前述した三大栄養素やビタミン類がバランスよく配置された食事を摂るのが基本です。

そして栄養バランスが整った献立を軸にして、GI値が低い食材に置き換えたり食事を摂取するタイミングを考えていきます。

主食にはカリフラワーライスなどの低GI食品を加えてみるとよい

糖質の摂取量を減らすと自然に食後の血糖値は抑えられますが、炭水化物を抜いた食事を続けるのは簡単ではありません。

特に中高年の場合、長年の食習慣が根付いて炭水化物を抜いた食事に抵抗感を覚える人もいるのではないでしょうか。

そのような人にも炭水化物を抜かずに糖質を抑える食事方法として、低GI食品の活用が挙げられます。

低GI食品とは、食材に含まれる糖質が体内にゆっくりと吸収されるため食べたあとの血糖値の吸収を穏やかにする食品のことです。

下記に示した低GI食品のほとんどが、加工されていないものも含めスーパーなどで販売されています。

主食として気軽に取り入れられる低GI食品を、下記にまとめました。

  • 全粒粉パン
  • 全粒粉パスタ
  • そば
  • 玄米
  • カリフラワー

上記に示した5つの低GI食品は、主に主食に混ぜたり置き換えたりして代用可能な食品です。

ご飯やパン、じゃがいもといった炭水化物は高GIといわれ、摂取したあと急速に血糖値が体内に吸収される仕組みとなっています。

そこで主食として食べる白米にGI値の低い玄米を混ぜたり、小麦でできたパンを全粒粉パンをに置き換えたりすると高GI食品の摂取量が抑えられます。

高GI食品の摂取量が減ると血糖値の急上昇も自ずと緩やかになるため、無理に炭水化物の摂取量を減らさず食後高血糖の予防が可能です。

さらに低GI食品は糖質が体内へ緩やかに取り込まれる特性から、食後のインスリン分泌量を抑えられる利点を持っています。

糖尿病は高血糖の持続によって膵臓がインスリンを分泌し続けた結果、膵臓が疲弊して十分なインスリン分泌量を確保できなくなる病気です。

そのため低GI食品を用いて食後の高血糖を防ぐのは、インスリン分泌を維持するのに一定の効果をもたらします。

糖尿病予備軍と診断された人や血糖値が気になる人は、毎日の食事に低GI食品を取り入れてみてください。

たんぱく質と良質な脂質の最適な比率を考えた献立をつくる

たんぱく質と良質な脂質。最適な比率を考えた献立をつくる

たんぱく質や脂質は糖質と同様に身体をつくるために欠かせない栄養素であり、献立に含まれているのが望ましい栄養素です。

特に脂質にはさまざまな種類が存在し、身体にとって良いものとそうではないものに分けられます。

脂質は大きく飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に分けられますが、身体にとってよい脂肪とされるのが不飽和脂肪酸です。

不飽和脂肪酸は植物や魚の脂身に多く含まれ、血液中のLDLコレステロールといわれる悪玉コレステロールや中性脂肪を低下させます。

ほかにも身体を冷えから守ったり皮下脂肪として内蔵を外部の衝撃から保護したりと、重要な役目を担います。

たんぱく質は、約20種類ものアミノ酸が組み合わさってできた栄養素です。

約20種類のアミノ酸から出来ているたんぱく質は、筋肉を成長させたり免疫に関わる細胞を作ったりして生命活動を支えています。

これらの栄養素を効果的に摂取するには、PFCバランスを考えて1日の献立を組み立てるとよいでしょう。

PFCバランスは炭水化物とたんぱく質、脂質の摂取比率を示しており、健康維持に効果的なPFCの摂取比率は以下の通りです。

  • たんぱく質:13〜20%
  • 脂質:20〜30%
  • 糖質:50〜60%

上記の比率を各栄養素を摂取する目安の比率として、毎日の献立を考えます。

献立を考える際は摂取量の比率だけに注目せず、自分の身体に適した摂取カロリーを超えないよう工夫する必要があります。

PFCのなかでも摂取比率が多いうえに食材自体のカロリーが高い脂質は、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の摂取比率を考えるのが大切です。

飽和脂肪酸を摂取する際には、PFCバランス全体の7%までにとどめられるよう工夫してみてください。

飽和脂肪酸が豊富なラードや乳製品の摂取量を減らし、不飽和脂肪酸を多く含むオリーブオイルや魚類から脂質を摂取します。

ただし飽和脂肪酸を含むすべての油が、身体に有害なわけではありません。

飽和脂肪酸を多く含むココナッツオイルやMCTオイルは、正しい使い方をすると抗酸化作用を発揮したり免疫を高めたりする働きを持っています。

このように身体によい影響をもたらす飽和脂肪酸は、摂取範囲内の量を適切に調理して摂るのが理想的です。

食事に用いる油の比率やその種類、それぞれの油がもつ長所を活かして血糖コントロールの安定化に役立ててください。

食事量や回数とインスリン分泌の関係性を理解して食事を食べる

インスリンの分泌と食事は密接に関係しており、食事のタイミングや量、回数はインスリンの分泌パターンに影響を及ぼします。

食事量が多い場合はインスリン分泌量が増え、食事回数が多いとインスリン分泌の頻度も増します。

そして欠食や不規則な食事摂取のタイミングによって引き起こされるのが、不規則なインスリン分泌と血糖コントロールの悪化です。

食事回数が少ない場合、次の食事時間まで空腹でいる時間が長引くため身体は少ない回数でより多くの血糖を身体に取り込もうと働きます。

そのため実際に摂取しているカロリーや糖質量が適切であっても、食後の血糖が急上昇して多量の追加インスリンが分泌されます。

多量のインスリンを一度に分泌したり、頻回に追加インスリンを分泌したりするのは膵臓の機能が低下する原因のひとつです。

そのためインスリンを効果的に出す生活を送るには、栄養バランスだけでなく規則的な食事回数と食事のタイミング、食事量も考えなければなりません。

1日の食事回数を決めて欠食せずに規則正しく食べ続けるのは、インスリンを出す方法の基本です。

特に朝食は1日のエネルギーを補給するうえで大切な食事であるにも関わらず、朝食を食べずに生活している人は一定数います。

朝食を抜いた場合、前日の夕食や夕食後の軽食から昼食までの時間が長くなり、体内の組織や細胞で栄養不足が発生します。

人間は眠っている間もエネルギーは常に消費されているにも関わらず、人間の身体はあらかじめエネルギーを貯蔵できないのが理由です。

しかし身体は飢餓状態に陥らないような仕組みにできているため、肝臓で糖を生成して不足分を補ったりケトン体を生成したりしてエネルギー源とします。

ケトン体は体内にある脂肪分を原料とし、体内が飢餓状態に陥った時のみ作られる物質です。

体内で生成されたケトン体は脳のエネルギー源として働きますが、酸性の物質である特性上、過剰に生成されると体液が酸性に傾いてしまいます。

さらにケトン体そのものを生成してエネルギー源とするのは、身体にとってその場しのぎの方法です。

そのためエネルギーを補給して1日中血糖値のバランスを整えるには、しっかりと朝食を摂る必要があります。

1日3食を基本とし、前述したように身体に必要なエネルギーを均等に摂れるよう1食あたりのエネルギー量を割り出して献立を組み立てましょう。

間食をする際は、サラダチキンなどのたんぱく質を中心に食べるとインスリンの追加分泌そのものが抑えられます。

このように食事回数や食事量そのものが、インスリン分泌に影響を与える要素だと理解して1日の食事を組み立ててみてください。

定期的な運動でインスリンを効果的に出す方法を考える

定期的な運動でインスリンを効果的に出す方法

インスリンを効果的に出す方法として知られているのが定期的な運動習慣ですが、運動はタイミングや種類を選ぶ必要があります。

運動は主に有酸素運動と無酸素運動の2種類があり、インスリン分泌に良い影響を及ぼすのが有酸素運動です。

有酸素運動は酸素を消費する運動で、体内の糖質や脂質の消費量が多いジョギングエアロビクスが該当します。

無酸素運動は短時間で身体に負荷がかかる運動で、瞬発的に身体を動かす短距離走や筋力トレーニングなどが挙げられます。

一方で無酸素運動は体内に蓄えられた糖質を分解したり、基礎代謝を上げたりするのが利点です。

これらの運動は高血糖になるのを防ぎ、追加インスリンの分泌量を抑えるため膵臓の負担が抑えられてインスリンを出す力が高まります。

ただし運動は好きなタイミングで実施するとよいものではなく、インスリンの分泌パターンや血糖値の推移を理解して行うのが重要です。

有酸素運動を活用してインスリン感受性を高めるタイミングとは

有酸素運動を活用。インスリン感受性を高めるタイミング

有酸素運動を活用してインスリン感受性を高めたい場合、運動するのに適したタイミングは食後1〜2時間後です。

インスリン感受性は、インスリンの作用を受ける細胞の反応の良さをいいます。

運動はインスリン感受性を高める作用があり、そのメカニズムは運動によって体内の細胞が糖質を必要とする仕組みによるものです。

筋肉などの体内の細胞は、糖質を主な栄養源として働くため、身体を動かすと細胞の糖が消費されてより多くの糖質が必要となります。

つまり血糖値が上がり始めるタイミングに合わせて運動を始めると、体内の細胞でインスリン感受性が高まってより効果的に血糖を消費できるということです。

そして食後に血糖値が上がる食後1〜2時間後に、その仕組みを活用して有酸素運動を行います。

反対に運動を行うのに適さない時間帯は、血糖値が下がるタイミングである食前です。

血糖値が下がる食前に有酸素運動でさらに血糖値を消費すると、体内の血糖をさらに不足させて低血糖を起こす恐れがあります。

特に多くの糖質を消費する有酸素運動を行う場合は、食前以外のタイミングで運動してください。

年齢などの理由で食後の運動に抵抗がある人は、食後の運動が消化管の負担になるのも考慮し正午から夕方に行うのがポイントです。

正午から夕方にかけて中程度以上の運動をすると、インスリン感受性が向上するとのデータがライデン大学の研究で明らかになっています。

運動強度や身体活動量は一般的にメッツという単位で表され、中程度以上の運動は3メッツ以上のウォーキングジョギングが該当します。

中程度以上の運動を定期的に行なうと、インスリン感受性を向上させる以外に肝臓に脂肪が蓄積するのを防ぐのに効果的です。

特に1日の大半を座って過ごす傾向にある高齢者や事務職の人は、1日のどこかでウォーキングなどで身体を動かすと基礎代謝が高まります。

これまで運動習慣がなかった人は30分程度のウォーキングから始めていき、徐々に身体を慣らして運動強度を上げていきます。

運動による効果は即時的に出るものではなく、数週間から数ヶ月かけて徐々に効果が感じられてくる場合もあるため、頑張って継続してみましょう。

筋肉が糖の取り込みを促進する仕組みを利用して無酸素運動を行なう

無酸素運動。筋肉が糖の取り込みを促進

前述したように糖を消費したい場合は有酸素運動が効果的ですが、無酸素運動もインスリン感受性の向上に効果をもたらします。

無酸素運動は筋トレや短距離走といった身体の筋肉を大きくする効果のある運動で、短時間で身体に負荷のかかるのが特徴です。

糖質は筋肉を大きく成長させる働きがあり、筋力トレーニングによって筋肉が鍛えると筋肉量が増える過程で体内の糖質が利用されます。

筋肉の細胞が糖質を栄養素として体内に取り込む過程で、インスリンが細胞に作用して筋肉の細胞が糖質を取り込めるよう働きかけます。

筋肉の発達や増加に伴い糖の消費量が増え、基礎代謝やインスリン感受性が向上するのはこうした身体の仕組みが理由です。

ただし無酸素運動を行なう場合、運動強度や種類の選択に気をつける必要があります。

筋トレや短距離走といった無酸素運動は気軽に始められるものですが、これらの運動は心血管系に負荷がかかります。

特に高齢者は年齢によって足腰の筋力が弱まっていたりバランス感覚が低下していたりして、運動が原因で怪我をする人も少なくありません。

さらに無酸素運動は短時間で多くのエネルギーを消費して、身体がエネルギーを補充しようと血圧や血糖が一時的に上昇します。

動脈硬化や高血圧を抱えている高齢者の場合は、運動後の身体の変化を理解して自分に見合った運動を見つけましょう。

さらに糖尿病患者が運動を行なうときに実施するとよいのが、無酸素運動と有酸素運動との併用です。

無酸素運動を実施する前に有酸素運動で心拍数を上げ、筋肉に供給される血液の量を増やします。

有酸素運動を行なう場合は心臓への負担を考慮し、心拍数が極端に上がらないように100/分を目安とするのがよいです。

そして全身への血流が増えたところで、少し重いと感じる程度のタンベル上げなどの軽い無酸素運動を行います。

有酸素運動によって筋肉にある程度の血流が確保されているため、軽い無酸素運動を行っても血糖値が効果的に取り込まれます。

このように身体の仕組みを利用して有酸素運動と無酸素運動をうまく活用しながら、継続的に筋力トレーニングを実施してみてください。

運動によるストレス管理と睡眠リズムの調整がインスリン感受性を高める

ストレス管理と睡眠リズムの調整。インスリン感受性を高める

運動習慣はストレス管理や睡眠リズムの調整にも有効であり、こうした身体への働きかけはインスリン感受性の向上にも効果をもたらします。

心と身体がストレスにさらされると、体内ではストレスホルモンの分泌が活発化して血圧や血糖値が上がります。

ストレスホルモンはストレスによって分泌が活発化するホルモンの総称で、コルチゾールやアドレナリンなどがその代表例です。

これらのストレスホルモンやストレスそのものは食事の有無に関係なく血糖値を上昇させ、インスリンの働きを弱くします。

そのためストレスが蓄積していると、日頃から血糖値を意識した食事をしたり間食を減らしたりしても、血糖値の上昇は改善しません。

インスリンを効果的に出して血糖値を安定させたい人は、身体が晒されるストレスにも目を向けてみるのが大切です。

運動は血糖値の安定化やインスリンを効果的に分泌させるだけでなく、ストレスを和らげる効果もあります。

運動後に分泌されるセロトニンやエンドルフィンなどのホルモンは、副交換神経を活発にして身体の休息を促します。

さらに全身の血液の流れが改善されて脳に向かう血流も良くなり、脳のストレス処理能力も向上するのも運動する利点です。

運動が身体にもたらす効果は他にもあり、日中のうちに身体を動かして適度な疲労感が得られると睡眠の質が向上します。

日中に活動する機会が少ない場合、疲労感が少ないのが理由で睡眠の質が落ちているケースも少なくありません。

入眠まで時間がかかったりすっきり起きられなかったりするときは、活動と休息のバランスを見直してみるのも大切です。

そして日中の活動量が少ない場合や運動習慣がないときは、無理のない範囲で身体を動かしてみてはいかがでしょうか。

普段、屋外に出る機会の少ない人は日光浴を兼ねた散歩をすると、リラックス効果が得られるほかに体内でビタミンDが合成されて骨の強度や免疫力も向上します。

このように定期的な運動習慣は活動と休息のリズムだけでなく、身体の調子を整える作用も持っています。

インスリンを効果的に出して血糖値の安定化を図りながら、身体全体の調子を整えて病気を防ぐためにも積極的に運動に取り組んでみてください。

医学の力を利用してインスリン分泌を積極的にサポートする

医学の力を利用してインスリン分泌をサポート

糖尿病治療ではインスリン分泌を積極的にサポートする薬を用いて、インスリンを効果的に出す方法がいくつかあります。

インスリン分泌をサポートする方法は糖質を制限するだけでなく、内服薬を使用してインスリン分泌の場のβ細胞を保護する方法もあります。

糖質を制限してインスリン分泌を減らすとβ細胞の保護につながりますが、食事制限だけでは不十分な場合は薬の利用も必要です。

多様な種類の糖尿病治療薬のうち、特にインスリンの分泌を促す効果をもつ薬にGLP-1阻害薬やDOO-4阻害薬があります。

これらの薬はどのようなメカニズムで膵臓に作用するのか、使用する際にはあらかじめ知っておきましょう。

GLP-1受容体作用薬やDPP−4阻害薬を用いてインスリン分泌を補助する

糖尿病の人の場合はインスリンを効果的に出す方法として、GLP-1受容体作用薬やDPP−4阻害薬を用いる選択肢もあります。

GLP-1は小腸から分泌されるホルモンのひとつで、消化管に入った食べ物に反応し、膵臓にインスリンを分泌するよう司令を出します。

その際に血中の血糖濃度が低い場合にはこのホルモンは作動せず、インスリンの分泌もありません。

この仕組みを利用して作られたGLP-1受容体作動薬は、食後血糖が低いときは作用しないのが特徴です。

そしてDPP-4阻害薬も同様に血糖値が上昇する度合いに応じて作用するため、低血糖が起きるリスクが軽減されています。

DPP-4阻害薬はもともと体内に備わっているDPP-4という酵素の働きを阻害して、インスリンの作用を邪魔しないように働きかける薬剤です。

DPP-4という酵素はもともと血糖を下げるのに働きかけるインクレチンを阻害して、血糖を上げるグルカゴンの分泌を抑えます。

つまり消化吸収の過程でDPP-4という酵素が働くと、間接的に血糖値を上げてしまうということです。

このように上記の薬剤は血糖値を調節するためにもともと備わっている身体のメカニズムをうまく活用し、良好な血糖コントロールに導きます。

GLP-1受容体作動薬やDPP-4阻害薬は薬剤の種類も多く、年齢や生活習慣、腎機能などの情報をもとにその人に適した種類の薬を選択します。

服用のタイミングや頻度は週1回程度のものから1日2〜3回程度のものまで豊富な種類があり、自分の生活リズムも反映させられるで選択できるのも利点のひとつです。

良好な血糖コントロールを保ったり目指したりしている人は、血糖降下薬を利用するのもひとつの選択肢として検討してみるのはいかがでしょうか。

GLP-1受容体作用薬やDPP−4阻害薬にはさまざまな副作用がある

インクレチンに関連した治療薬。さまざまな副作用がある

インクレチンに関連した糖尿病治療薬を用いる場合、GLP-1受容体作用薬やDPP-4阻害薬にも副作用があるのを理解しておきましょう。

とくにGLP-1阻害薬は近年痩せる薬として自由診療でも処方されていますが、適正に使用しなければ急性膵炎を起こすケースもあります。

ほかにも腹痛や吐き気、嘔吐といった消化器系の副作用や低血糖症状を自覚したり、食欲不振によって過度な体重減少を招いたりします。

DPP-4阻害薬もGLP-1受容体作動薬と同様の副作用があり、高齢者や肝機能障害、腎機能障害を抱える人は定期的な血液検査が必要です。

これらの薬剤を利用したいと考えている人は、あらかじめ血液検査などが実施可能な医療機関で相談、検査したうえで適切に使ってください。

GLP-1受容体作動薬の副作用と使用する際に気を付けたいところ

GLP-1受容体作動薬の副作用は、以下の通りです。

  • 吐き気や嘔吐
  • 食欲不振
  • 便秘
  • 下痢
  • 頭痛
  • 急性膵炎
  • 低血糖
  • 胆嚢炎
  • 腸閉塞

GLP-1受容体作動薬は、インスリン分泌を促すインクレチン同様の作用を活かして消化管の動きを緩やかにし、食欲を抑えます。

こうした働きによって胃に内容物を長時間留めておいて満腹感を持続させる反面、吐き気や嘔吐、食欲不振や便秘などの症状が現れます。

少量の食事摂取のみで胃のもたれを自覚したり吐き気を覚えたりするのは、薬の作用によるものです。

人によっては急な食欲不振や吐き気により食事量が大幅に減って、低血糖となるケースも少なくありません。

その際にはブドウ糖を摂取したり甘味料が含まれた飲み物で糖質を補給したりして、数時間程度安静にして様子をみてください。

改善しない場合には早急に、医療機関の受診が必要です。

特に気をつけたいのは嘔吐便通異常で、これらの症状は急性膵炎や腸閉塞、胆嚢炎の際にも現れます。

急性膵炎や胆嚢炎の場合は冷や汗が出るほどに激しい腹痛を伴う嘔吐が特徴的で、腸閉塞の場合は長引く便秘と便臭を伴う嘔吐が特徴です。

上記の症状が現れた場合は入院加療のうえ、手術や集中的治療を必要とするケースもあるため、早急に医療機関を受診しましょう。

DPP-4阻害薬の副作用と使用する際に気を付けたいところ

DPP-4阻害薬を使用した際に現れる副作用は、以下の通りです。

  • 吐き気や嘔吐
  • 腹部膨満感
  • 便秘
  • 下痢
  • 皮膚症状
  • 類天疱瘡
  • 急性膵炎
  • 腸閉塞

上記に示したようにGLP-1受容体作動薬に類似した作用を持つDPP-4阻害薬の副作用は、GLP-1受容体作動薬のものと類似しています。

上記に記載した副作用でDPP-4阻害薬に特徴的な症状のひとつである皮膚症状には、発疹や湿疹、痒みといったものがあります。

特に重篤な副作用として報告が挙がっている類天疱瘡は、痒みや水疱、びらんといった症状を伴う皮膚疾患です。

副作用の頻度としては多くはないものの、重症度次第では皮膚の水疱が破れて赤くただれるケースもあります。

そのため皮膚に異常が起きた場合は速やかに皮膚科を受診し、適切な診断を受けて早急に治療を始めるのが大切です。

ほかにもGLP-1受容体作動薬同様に急性膵炎や腸閉塞といった症状が出現し、重篤化するケースもあります。

DPP-4阻害薬は腎臓や肝臓で代謝されるため、使用する場合は些細な身体の変化に気を配ってみてください。

一般的な副作用症状は薬が肝臓や腎臓で代謝され、尿から排泄されていくと徐々に症状は軽くなっていきます。

しかし高齢者や肝機能障害、腎機能障害がある人は薬の代謝が遅れて薬の効果が強く出たり、持続したりするケースが少なくありません。

特に肝臓や腎臓に持病がある人や高齢者は副作用症状が起こりうるのを念頭に置き、薬の容量と用法を守って服用するのが大切です。

そして身体に異変を自覚した際は速やかに医療機関を受診するのはもちろん、定期的にかかりつけ医を受診して治療の状況を確認してしてもらいましょう。

定期的にかかりつけ医を受診して治療の進捗状況を確認する

定期的にかかりつけ医を受診。治療の進捗状況を確認

GLP-1受容体拮抗薬やDPP-4阻害薬でインスリン分泌を手助けさせる場合、定期的にかかりつけ医を受診して治療の進捗状況を確認してもらう必要があります。

薬の効果の発現具合や効き目の程度には個人差があり、適切に薬を使用するには服用後の身体の反応をみながら進めなければなりません。

特に薬の副作用は患者本人が自覚していないにも関わらず、検査を行うと実は副作用が起きていると発覚する場合もあります。

これらの薬を使うときは体重や血糖値などの治療の進捗状況を確認しながら、投与量を変更したり薬そのものを変更したりして治療を進めます。

治療後の体重に対して薬の量が過剰になって低血糖や栄養不足を招く可能性があるため、治療の進捗状況を確認しなければなりません。

GLP-1受容体拮抗薬やDPP-4阻害薬には食べ物の消化吸収を穏やかにし、食欲を抑える作用があります。

この作用により、食事量の減少に由来して食後血糖や普段の血糖値の平均値自体も低下します。

特に糖尿病治療として他の血糖降下薬と併用している人は、低血糖が起きないよう定期的に医師の診察を受けて薬を調整してもらってください。

さらにGLP-1受容体拮抗薬やDPP-4阻害薬を使用する際は、血液検査による腎機能や肝機能のモニタリングも定期的に行います。

長期間に及ぶ薬の使用は腎臓や肝臓に負担をかけ、薬がしっかり排泄されず薬が体内に残る恐れがあります。

このようなリスクから自分自身の健康を守り、体内でインスリン分泌が維持できるように医師の指導に従って定期的な受診を心がけましょう。

規則正しい生活がインスリン分泌を促進する土台となる

インスリン分泌を促進させるにあたって大切なのは、規則正しい生活習慣とバランスの取れた食事です。

生活習慣病の代表的な例に挙げられる糖尿病は炭水化物や肉中心の食生活や、運動不足、非規則な睡眠リズムなどが深く関わっています。

つまり生活習慣病を防ぐには上記で述べた食事や運動、睡眠習慣に目を向けて、規則正しい生活習慣を送るのが良いということです。

規則正しい食生活や生活習慣は食事による血糖値の急上昇を防ぐほか、体内時計が正しく機能するためインスリンの分泌も整えられます。

食生活や生活習慣を正して身体を整えるのは、糖尿病と診断された人にとって必要な治療のひとつです。

薬物療法を行う場合も規則正しい生活習慣をプラスして、ようやく薬本来の力が発揮されます。

このように規則正しい生活習慣は糖尿病予防だけでなく、糖尿病治療においても重要です。

糖尿病予防のみならず糖尿病治療をする人は、インスリン分泌の土台となる生活習慣を整えるところから初めてみましょう。

この記事の監修者

大学病院で糖尿病・内分泌内科の臨床医として経験を積み「リサーチマインドを持った診療」をモットーに日々研鑽を積んでまいりました。当院が少しでもあなた様のお役に立つことが出来れば幸いです。

■経歴
平成21年3月 金沢医科大学医学部医学科卒業
平成21年4月 杏林大学病院 初期臨床研修医
平成26年1月 金沢医科大学病院 糖尿病・内分泌内科学教室
平成30年4月 金沢医科大学病院 助教
平成30年9月 金沢医科大学大学院医学研究科 博士課程修了
令和3年1月 金沢医科大学病院学内講師
令和5年6月 Gran Clinic(石川県金沢市)院長

■所属学会
日本内科学会 認定医
日本糖尿病学会 専門医
日本抗加齢医学会 専門医
日本腎臓学会
日本内分泌学会

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