人間ドックなどの健康診断で、血糖値の他にHbA1c(ヘモグロビンA1c)が高いと診断されて、不安に感じていませんか。
HbA1cは、血糖値と深く関係しており、糖尿病の診断に用いられます。
近年、世界的に糖尿病患者は増加しており、成人の10人に1人が糖尿病になるといわれています。
HbA1cと血糖値の改善方法などの知識は、糖尿病予防に重要です。
HbA1cと血糖値の改善には、食生活の改善と運動習慣が深く関わっています。
この記事では、HbA1cおよび血糖値を改善するために効果的な食事と運動のポイントについてまとめました。
- HbA1cとは何か
- HbA1cが変化するメカニズム
- HbA1cを改善する食事のポイント
- HbA1cを改善する運動のポイント
この記事を参考に、明日から食生活の改善と運動を始めてみましょう。
HbA1cは血糖コントロールの状態を把握する指標である
HbA1cは、糖尿病の診断に用いる数値の1つで、赤血球に存在するヘモグロビン(Hb)にブドウ糖が結合したものです。
赤血球は、約120日周期で入れ変わり、骨髄でつくられて脾臓(ひぞう)で破壊されています。
この120日の間に、赤血球は体内を巡り、ヘモグロビンとブドウ糖が結合するのです。
先につくられた赤血球から破壊されていくため、測定時点では大半を1〜2ヶ月前の赤血球が占めています。
HbA1cを詳しく解説する前に、ヘモグロビンとブドウ糖について説明します。
ヘモグロビンは酸素を運搬する
ヘモグロビンは、肺で酸素と結合し、全身に酸素を運搬します。
鉄(ヘム)とタンパク質(グロビン)が結合したものであり、貧血はヘモグロビンが不足するために起こります。
貧血になると、全身に酸素が運搬されにくくなり、さまざまな体の不調を引き起こすのです。
貧血の症状を、以下に示します。
- 頭痛
- 肩こり
- 息切れ
- 倦怠感
- 疲れやすさ
- 動悸
- めまい
このような症状が出た場合には、ヘモグロビンの生成に必要な銅が含まれる魚介類やレバー、大豆などを摂取してみましょう。
ブドウ糖は脳のエネルギーになる
ブドウ糖(グルコース)は、果物や穀物に多く含まれ、脳が唯一エネルギーとして利用できる物質です。
食べ物に含まれる糖質が、ブドウ糖に分解され、エネルギーとして利用可能となります。
ブドウ糖が多く含まれる食品は、以下のとおりです。
引用元:文部科学省 食品成分データベース
食品名 100gあたりのブドウ糖量(g) 米こうじ 11.4 コッペパン 2.5 干しぶどう 28.6 マーマレード 24.4
人間が1日に必要なブドウ糖の量は、約100〜150gとされています。
ブドウ糖が不足すると、脳のエネルギーが足りず、集中力が低下してしまいます。
反対に過剰摂取すると、糖尿病の発症リスクを高めるなどの弊害を引き起こすため、摂取量には注意が必要です。
食事にどれくらいブドウ糖が含まれているか確認し、100〜150gを目標に摂取してみましょう。
HbA1cを見るときはNGSP値で確認しよう
HbA1cの数値は、NGSP値とJDS値の2種類に分かれます。
JDS値は、日本独自の基準であり、日本以外では使用されていません。
JDS値は、以下のとおりです。
正常値 | 正常高値 | 境界値 | 糖尿病型 |
---|---|---|---|
〜5.1% | 〜5.5% | 〜6.0% | 6.1%〜 |
2013年以降は、国際的にHbA1cの指標として用いられているNGSP値が標準になりました。
NGSP値の数値について、以下の表に示します。
正常値 | 正常高値 | 境界型 | 糖尿病型 |
---|---|---|---|
~5.5% | ~5.9% | ~6.4% | 6.5%~ |
JDS値では、6.1%以上を糖尿病型としており、NGSP値よりも厳しい基準となっていました。
HbA1cは、糖尿病の診断に用いられますが、溶血性貧血や肝硬変などは赤血球の寿命を短縮させるために低値を示す可能性があります。
HbA1cと血糖値は相関があるため、低血糖症状のある人は、HbA1cも低くなります。
NGSP値の表をもとに、自分のHbA1cがどの状態なのか判断しましょう。
HbA1cは血糖値に合わせて変動する
HbA1cは、前述のとおりヘモグロビンにブドウ糖が結合したものです。
血液中のブドウ糖の量が多いほど、ヘモグロビンに多くのブドウ糖が結合します。
一度結合したHbA1cは、赤血球が寿命を迎えるまでブドウ糖と結合し続けます。
血液中のブドウ糖の量が多い、すなわち血糖値が高い人は、HbA1cも高値を示すのです。
HbA1cは約1〜2ヶ月前の血糖コントロールを反映しているため、その日の運動や摂取した食品で数値は変動しません。
HbA1cは食生活の改善と運動習慣の獲得が重要
前述の通り、HbA1cは、血糖コントロールを反映している数値です。
血糖値が良い状態で安定し続けると、HbA1cも同じように良い状態になります。
血糖値を下げるために有効とされる方法は、以下のとおりです。
- 食生活の改善
- 運動習慣の獲得
血糖値は肥満によって上昇しやすい状態になるため、肥満の予防と改善が血糖値を安定させ、最終的にHbA1cの安定化につながります。
肥満の要因として挙げられるのは、以下のとおりです。
- 過食
- 高カロリーな食品の摂取
- 運動不足
このように、肥満の発生には食事と運動が深くかかわっているため、食生活の改善と運動習慣の獲得が推奨されています。
HbA1cの改善には摂取する食品の見直しが必要になる
血糖コントロールに有効的な食生活のポイントは、以下のとおりです。
- エネルギー摂取量の制限
- 炭水化物制限
- 食物繊維の摂取
1つずつ、解説していきます。
エネルギー摂取量の制限によって血糖コントロールは改善する
エネルギー摂取量とは、カロリー摂取量のことです。
糖尿病情報センターが、糖尿病の血糖コントロールのためにエネルギー摂取量の制限を推奨すべきかというテーマの研究を実施しました。
血糖コントロールとエネルギー摂取量に着目した研究報告は、以下のとおりです。
- エネルギー摂取量の制限に伴った体重の5%以上の減量が、血糖コントロールを改善した
- 25%以上のエネルギー摂取量の制限を指導した場合、HbA1cが改善した
- エネルギー摂取量の制限による血糖コントロールの改善は、体重の重い人や肥満の人により効果的である
エネルギー摂取量の制限の目安の数値として、厚生労働省が発表した推定エネルギー必要量について、以下の表に示します。
推定エネルギー必要量(kcal/日)
性別 | 男性 | 女性 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
身体活動レベル | 低い | 普通 | 高い | 低い | 普通 | 高い |
18〜29歳 | 2300 | 2650 | 3050 | 1700 | 2000 | 2300 |
30〜49歳 | 2300 | 2700 | 3050 | 1750 | 2050 | 2350 |
50〜64歳 | 2200 | 2600 | 2950 | 1650 | 1950 | 2250 |
65〜74歳 | 2050 | 2400 | 2750 | 1550 | 1850 | 2100 |
75歳以上 | 1800 | 2100 | – | 1400 | 1650 | – |
最初に、自分がどこに分類されるのかを確認し、必要なエネルギー摂取量をみてください。
その必要エネルギー摂取量よりも少なくなるように、食事メニューを調整しましょう。
炭水化物制限がHbA1cを改善させる
130gとは、どのくらいの量なのでしょうか。
米100gあたりに炭水化物は84.8g含まれているため、1日約150gの米で摂取する炭水化物量は約130gになります。
つまり、1食あたり50g以上は米を摂取できないということです。
米以外にも炭水化物は含まれているため、摂取量には注意が必要です。
水溶性食物繊維の摂取が血糖コントロールを改善させる
食物繊維は、栄養吸収をゆっくりにするため、血糖値の急上昇を緩やかにする働きがあります。
さらに、小腸でコレステロールの吸収を抑えるため、動脈硬化の予防効果もあります。
食物繊維は、水溶性と不溶性に分けられ、1日の平均摂取量は17〜19gです。
水溶性食物繊維の摂取による血糖コントロール改善報告があり、1日あたりの推奨摂取量は、7.6〜8.3gとされています。
水溶性食物繊維が多い食品は、以下のとおりです。
- 納豆
- 麦
- オートミール
納豆には、100gあたり2.3gの食物繊維が含まれています。
食事を通した血糖値の改善には、バランスの取れた食事で摂取エネルギーの調節が重要です。
さらに炭水化物摂取量の調節や、食物繊維の摂取にも気をつけて食事メニューを考えてみましょう。
血糖コントロールを改善するには継続した運動が必要
運動習慣のない人は、肥満になる危険性が高まります。
肥満は、血糖値を下げるインスリンの効果が下がるため、血糖値も高値を示す可能性があります。
血糖値の改善に効果的な運動は、以下のとおりです。
- 有酸素運動
- レジスタンス運動
有酸素運動はブドウ糖の吸収を促進する
最近の研究では、週に30〜100分の有酸素運動で、血糖コントロールの改善が認められています。
有酸素運動とは、低負荷で長時間行う運動のことです。
有酸素運動を行うと、筋肉への血流が増加し、血液中のブドウ糖が吸収されます。
それに伴い、インスリンの分泌が促進され、血糖値を低下させます。
有酸素運動の例は、以下のとおりです。
- ジョギング
- ウォーキング
- 水泳
- エアロビクス
- サイクリング
長期間継続できるように、自分に合った運動を選択しましょう。
レジスタンストレーニングはインスリン分泌を促進し血糖値を低下させる
レジスタンストレーニングでは、筋肉が通常より多くのエネルギーを必要とし、ブドウ糖の需要を高めます。
ブドウ糖が細胞に吸収されると同時に、インスリン分泌量も増加し、血糖値が低下するのです。
レジスタンストレーニングには、自分の体重を使用する自重トレーニングと、器具を使用して自分の体重よりも重い負荷をかけるウェイトトレーニングがあります。
器具を使用するウェイトトレーニングは少ない回数で効果が出る反面、ジムへ行く必要があるため、自重トレーニングのような手軽さはありません。
レジスタンストレーニングのポイントは、以下のとおりです。
- 週に2〜3日
- 連続しない日程
- 主要な筋肉を含む5種類以上
- 強度やセット数を徐々に増加させる
- より重い重量物を使用する方が血糖改善効果が高い
自重トレーニングまたはウェイトトレーニングのどちらが、自分に合っているのか確認しながら、軽い負荷量から始めてみましょう。
HbA1cは、長期的な血糖値の改善によって数値が変化します。
そのため、運動を継続していかなければなりません。
無理のない負荷量からはじめ、継続できるものを探してみましょう。
HbA1cが高い人は食生活の見直しと運動の習慣化を図りましょう
今回は、HbA1cおよび血糖値を改善する方法について、食事と運動に着目してまとめました。
食事を通した血糖値の改善には、1日のエネルギー摂取量と炭水化物摂取の制限、食物繊維の摂取が重要です。
運動を通した血糖値の改善には、有酸素運動とレジスタンストレーニングが効果的であるとされています。
HbA1cは、1〜2ヶ月前の血糖コントロールを反映しているため、継続的に食生活の改善と運動の実施が必要です。
いきなり無理な食事制限や運動量で行うのではなく、少しずつ調整しながら進めていきましょう。
HbA1cが高い人は、この記事を参考にして、明日から少しずつ食生活の見直しと運動を始めてみてください。