糖尿病を防ぐために知っておきたいインスリンの働きと食事の関係

インスリンの働きと食事の関係。糖尿病を防ぐための知識

会社の健康診断や自発的に行っている人間ドックで、血糖値やHbA1cの数値が高いと指摘されると真っ先に糖尿病を思い浮かべるのではないでしょうか。

糖尿病は現代において生活習慣病といわれており、暴飲暴食や運動不足などが原因となり起こる病気です。

糖尿病はがんや心血管系の疾患だけでなく、脳血管疾患や認知症など多岐にわたる病気の原因となると指摘されています。

様々な病気を予防する目的でも糖尿病は早期発見、早期治療が大切な疾患のひとつです。

糖尿病は早いうちに発見し生活習慣を改善すると、内服薬やインスリンに頼る前に血糖値をより良い値にコントロールできる場合があります。

糖尿病を予防するためにも、ぜひインスリンと食事の関係を知っておきましょう。

この記事でわかること
  • インスリンの働きと糖尿病の関係性
  • 血糖値の調節方法
  • 無理せずできる食事改善のポイント
目次

糖尿病に大きく関係するインスリンは、様々なホルモンによって調節される

糖尿病に関係するインスリン。様々なホルモンによって調節

インスリンは糖尿病と切っても切り離せない関係があり、血糖値の調整において重要な役割を果たすホルモンです。

インスリンの働きが弱くなったり、インスリンの分泌が少なくなったりすると糖尿病を発症するというのは知っている人が多いのではないでしょうか。

インスリンが体内でどのような役割を果たし、なぜ糖尿病と関係しているのかについて知るのが糖尿病を予防する第一歩です。

インスリンのはたらきを知って食事療法に活かすために、基本となる栄養素についても知っておきましょう。

食事から摂取した栄養素の行方

栄養素は小腸から吸収される

人間が日常的に食事を通じて摂取する栄養素は、以下のような形に姿を変えて小腸から吸収されます。

  • 炭水化物:糖質
  • たんぱく質:アミノ酸
  • 脂質:脂肪酸

糖尿病の病態と密接に関係している上記の栄養素は、消化と吸収によって体内に一度貯蔵されます。

特に糖質は小腸から吸収された後、身体を動かす栄養素となり血流によって筋肉や肝臓など全身の主要な臓器に届けられるのです。

小腸から吸収されたブドウ糖は、ほとんどがグリコーゲンとして筋肉と肝臓に届けられます。

グリコーゲンは肝臓では血糖値の調節、筋肉では身体を動かす際に筋肉を収縮させる作用を発揮するのです。

しかし糖質を摂取しすぎた場合は、肝臓や筋肉に貯蔵されずに余った糖分は血液の中に取り込まれて全身を巡ります。

糖が血液中に吸収され全身を巡っているときは、ブドウ糖としてヘモグロビンと結合しています。

一方、糖とは違うかたちで人間の身体を作るために重要な働きを担うのがたんぱく質です。

肉や魚に多く含まれるたんぱく質は、消化と吸収を経てアミノ酸となり、骨格を形成する筋肉に取り込まれて私たちの身体を動かすために働いています。

そしてバターやマーガリンなどから摂取される脂肪は、消化吸収の段階で脂肪酸となり主に肝臓で栄養源として貯蔵されます。

上記の栄養素のうち主に脂肪酸や血糖を体内に吸収する過程で関与するホルモンが、インスリンです。

インスリンの基本的な働きは血糖値の調整

インスリンの基本的な働き。血糖値の調整

インスリンは、体内で血糖値が上がったのを察知して膵臓から分泌され、以下の臓器を標的に作用します。

  • 肝臓
  • 筋肉
  • 脂肪細胞

上記にある3つの臓器や細胞は糖を栄養源としているため、インスリンは細胞の中に糖を取り入れさせて血液中の血糖値を下げます。

2つの相反する作用で血糖値を保つ

一方、血糖が下がりすぎた場合に血糖値を上げるよう働きかけるホルモンも存在します。

血糖値を上げる作用を発揮するホルモンは、以下の通りです。

  • グルカゴン
  • 副腎髄質ホルモン
  • 副腎皮質ホルモン
  • 成長ホルモン

上記のように血糖値を上げる作用を持つホルモンは4つあり、なかでも膵臓から分泌されるグルカゴンはインスリンと拮抗して肝臓に血糖を上げるよう働きかけます。

このインスリンとグルカゴンが天秤のような役割を果たしているため、正常な人の血糖値は一定に保たれてるのです。

インスリンは2種類の分泌方法がある

人間の体内に必要な血糖値は70〜109mg/dLとされており、血液検査でも正常な血糖値となっています。

体内で血糖値が上昇すると膵臓が反応しインスリンの分泌量が増え、血糖が低くなるとインスリンの分泌は緩やかになって低血糖を防ぎます。

しかし、インスリンは血糖が高くなった場合に限って分泌されるのではありません。

インスリンの分泌方法には以下の2種類あり、それぞれ決まった役割があるのです。

  • 基礎分泌
  • 追加分泌

血糖を上げるホルモンは数種類あり、成長ホルモンやカテコラミンなどは体内で常に分泌され続けています。

インスリンにおける基礎分泌は血糖値の上昇に働きかけるホルモンと拮抗し、血糖を一定に保つよう調節するための分泌です。

追加分泌は食事やストレスなどで一時的に血糖が高くなった際に分泌され、血糖を一定の範囲に保てるよう働きかけます。

このように血糖を下げるインスリンと、血糖を上げる作用をもついくつかのホルモンによって、血糖が適切な濃度を保てるよう調整されているのです。

インスリンの分泌不足やインスリン抵抗性とは

高血糖の持続でインスリン機能が低下

インスリン分泌不足は膵臓から十分な量のインスリンが分泌されない状態を指し、インスリン抵抗性は体内でインスリンの効果が十分に発揮されなくなった状態を指します。

糖尿病にはインスリン抵抗性のほかにインスリンの分泌量の低下も挙げられますが、どちらも糖質や脂質の過剰摂取が原因となる場合が多いです。

前述したように血糖値が高くなるとインスリンが追加分泌され、血糖を適正な値に戻すよう働きかけます。

しかし糖質や脂質の摂りすぎで高血糖が持続すると、インスリンが糖を処理しきれなかったり、インスリンを絶えず分泌したりした結果膵臓に負担がかかるのです。

結果的に、インスリン分泌不全やインスリン抵抗性を招きます。

インスリン分泌不全やインスリン抵抗性が体内で起こると、高血糖状態が持続し2型糖尿病を発病します。

特にインスリンの分泌不足は膵臓の機能が低下している場合が多いため、糖尿病の進行具合や検査の値によってはインスリン注射や血糖降下薬を用いた治療が必要です。

ほかにも高血糖が持続すると、糖尿病だけでなく動脈硬化の進行やがんなどといった様々な病気の原因にもなるため、糖尿病でなくとも食生活にも気を配る必要があります。

無理せずできる糖尿病を防ぐための食生活のポイントを3つ紹介

糖尿病を防ぐための食生活。無理せずできるポイント

糖尿病を防ぐために食事のエネルギーを計算したり、1日に数時間の運動を取り入れたりと無理をしてしまう人が多くいます。

一般的に糖尿病予防には、必要なエネルギー量を計算し、食品交換表を用いて献立を考えるなど労力が必要だと思われがちです。

栄養を計算しその日に必要な栄養素を盛り込んだ献立を考えるのは、継続できなければ意味がありません。

仕事をしながら食生活を改善するのは簡単ではないように感じられますが、実際はもっとシンプルな方法で食生活の改善や摂取エネルギーの調整が可能です。

そこでこれから食生活を改善しようと考えている方は、これから紹介する方法でシンプルに食生活の改善を始めてみましょう。

糖質は食べ物の置き換えで摂取量やカロリーを減らす

低糖質食材に置き換えて無理なく改善

糖質や脂質は高血糖の原因となりますが、全身の細胞へのエネルギーを運んだり体温を保ったりと生命維持に欠かせない栄養素でもあります。

血糖値が高いからといって糖質や脂質の摂取制限を徹底すると、肝臓をはじめとする全身の主要な臓器が飢餓状態に陥ったり筋肉量が減少したりします。

糖質は多種多様な食べ物に含まれていますが、多くは白米や小麦粉などの主食に該当する食材です。

日常的に私たちが摂取する糖質について、以下にまとめました。

主食ご飯(白米)、麺類(うどん、パスタなど)、パン
嗜好品ケーキ、せんべい、ポテトチップなど
飲み物野菜・果物のジュース、炭酸飲料、アルコール類、甘味料が含まれる飲み物

上記の食べ物は全く食べないというのではなく、違う食材によって作られたものに置き換えたり混ぜたりするとよいです。

置き換えの例を、以下にまとめました。

  • 白米:玄米などの穀物への置き換え、白米を減らしキヌアなどの穀物でかさ増しする
  • 麺類:大豆で作られたパスタやグルテンフリーの麺に置き換える
  • パン:ライ麦パン、全粒粉のパンに置き換える
  • お菓子類:オーツ麦などから作られたクッキーやチーズ、ナッツ類に置き換える
  • 飲み物:水やお茶にする、ジュースの場合は濃縮還元ではなく果汁100%のものにする
  • アルコール類:ビールや日本酒ではなく、ワインなどに置き換える
  • 甘味料:ステビアやラカントなど自然由来の甘味料にする

上記のように糖質の含有量が少ない穀物や自然甘味料などに置き換えると、カロリーと糖質が抑えられます。

穀物やナッツ類などといった食べ物への置き換えは、カロリーや糖質の制限ができるだけではありません。

穀物などは栄養価や食物繊維が豊富なうえに、腹持ちがよく空腹感を感じる機会も減るため体重を減らすのにも有効です。

置き換えたからといって主食の摂取量を増やしてよいのではなく、他の栄養素とのバランスをよく考えて摂取しましょう。

脂質は不飽和脂肪酸を含む食品の摂取を心がける

脂質。不飽和脂肪酸の摂取を心がける

脂質はマーガリンやバターなど、油分の多いものだけではありません。

肉類やケーキなどのお菓子類を摂取しすぎても、体内に内臓脂肪として蓄積されてしまいます。

体内生成不可の不飽和脂肪酸を摂取

しかし肉類は貴重なタンパク源でもあるため、摂取を控えるのではなく良質なたんぱく質の摂取が不可欠です。

たんぱく質が多い肉類の中には、脂質を多く含むものがあるのを覚えておく必要があります。

脂質を多く含むたんぱく質を以下にまとめました。

  • 牛肉:ばら肉、牛タン、ひき肉
  • 豚肉:ばら肉、ロース、ひき肉
  • チーズ
  • 鶏肉:手羽元、手羽先、もも肉
  • 油:ラード、マーガリン、マヨネーズ、サラダ油など

肉類に含まれる脂肪は、体内で飽和脂肪酸に変換されます。

脂肪には飽和脂肪酸不飽和脂肪酸の2種類があり、体内における2種類の脂肪の働きは以下の通りです。

飽和脂肪酸・体内での熱量生成
・中鎖脂肪酸による脂肪蓄積の抑制
・コレステロールの上昇
・脳の血管を保護
不飽和脂肪酸・動脈硬化や高血圧の予防
・血流の促進
・記憶力や学習能力の向上
・DHAによる動体視力の改善
・HDLコレステロールの上昇
・LDLコレステロールの低下

飽和脂肪酸は体内によい効果をもたらすものもありますが、摂りすぎてしまうと体内に内臓脂肪として蓄積されます。

飽和脂肪酸のなかにはLDLコレステロールに変換されるものもあり、内蔵脂肪が蓄積されると血糖値の上昇やインスリン抵抗性を招くのです。

そのため飽和脂肪酸は摂取しすぎないよう気を付ける必要があり、1日あたり200g/日未満に留めるよう推奨されています。

飽和脂肪酸の過剰摂取を防ぐためには、肉の脂肪部分を取り除いて食べたり不飽和脂肪酸を多く含む魚を多めに摂取したりして工夫するとよいでしょう。

不飽和脂肪酸はHDL(善玉)コレステロールを上昇させ、LDL(悪玉)コレステロールを下げる作用を持ちます。

不飽和脂肪酸を多く含む食材には、主に以下のものがあります。

  • 魚:サーモン、まぐろ、かつおなど
  • 油:オリーブオイル、米油など
  • ナッツ類

上記のような食べ物に含まれる不飽和脂肪酸を、体内で合成するのは困難です。

一方で飽和脂肪酸は体内で合成するのが可能な脂肪分でもあるため、食事の際は不飽和脂肪酸を含む油分を摂取するとよいでしょう。

野菜類のほかに食物繊維を多く含む食べ物の摂取を心がける

食物繊維摂取で血糖値を下げる助けに

野菜はビタミン類などの栄養素を体内に取り込むうえで必要とされ、摂取は350g/日以上と厚生労働省で推奨しています。

野菜や海藻類に多く含まれる食物繊維は、糖尿病を予防するうえで非常に大きな役割を果たしているのです。

食物繊維を含む食材は繊維質が多く、十分に咀嚼する必要があります。

咀嚼回数が多いほどセロトニンやレプチンなどの満腹中枢を刺激するホルモンが分泌されたり、食後により多くの熱量を生産したりする利点が得られます。

結果的に食物繊維の摂取は肥満予防につながりますが、ほかにも糖の代謝に大きな影響を及ぼすのです。

食物繊維は胃や十二指腸で消化・吸収されず小腸に届くため、小腸が刺激されてインクレチンというホルモンが分泌されます。

インクレチンはインスリンの分泌を促して血糖を下げるよう働きかけたり、満腹中枢を刺激して食事の摂取量を抑えたりするため、間接的に糖質の摂取量を減らします。

しかし食物繊維は現代において、摂取不足の人が多いと指摘される栄養素でもあるのです。

日本人の食事摂取基準では、食物繊維の摂取量を以下のように推奨しています。

  • 18〜64歳の男性の場合:21g/日以上
  • 18〜64歳の女性の場合:18g/日以上

食物繊維は前述したような効果の他にも、腸内環境の維持や免疫細胞の活性化といった効果も持ち合わせているので積極的に摂取するとよいでしょう。

食物繊維を豊富に含む食品には、以下のようなものがあります。

  • 豆類
  • きのこ類
  • 野菜
  • 海藻
  • 穀物

食事のときに上記の食べ物を先に摂取すると、満腹中枢が刺激され空腹感を和らげて糖質の吸収を緩やかにする効果もあるのです。

このように食物繊維を取ったり、食べる順番を工夫したりすると糖の吸収を抑えるだけでなく間接的にインスリンを分泌させる膵臓への負担を和らげます。

食事の際は糖の吸収を穏やかにするために、野菜やきのこ類など食物繊維を多く含むものから食べ始めるよう工夫するのがおすすめです。

糖尿病予防を目的とした食事は無理せず継続できるような食生活が大切

糖尿病予防を目的とした食事。継続できるような食生活が大切

糖尿病を予防するためには高血糖や肥満を防ぐ必要がありますが、ほんの数ヶ月食事制限をしたり減量したりするのは効果的ではありません。

高血糖の予防や肥満予防という観点で始めるのではなく、健康的な食生活を目的として栄養バランスを考えるのも食生活改善のポイントのひとつです。

特に無理な糖質制限は、かえって空腹感を感じたり食事を我慢した反動から甘いものを衝動的に食べてしまうケースもあります。

不定期な暴飲暴食は血糖値の乱高下を引き起こし、血糖が長期的に安定せず血管への負担が増します。

上記のような不安定な食生活から由来する血管への負担を減らすために、長期的に栄養バランスを考えた食事摂取を心がけるのが大切です。

まずはインスリンの働きを手助けする食物繊維の摂取や食べる順番を意識して、簡単な食事改善から始めてみてはいかがでしょうか。

この記事の監修者

大学病院で糖尿病・内分泌内科の臨床医として経験を積み「リサーチマインドを持った診療」をモットーに日々研鑽を積んでまいりました。当院が少しでもあなた様のお役に立つことが出来れば幸いです。

■経歴
平成21年3月 金沢医科大学医学部医学科卒業
平成21年4月 杏林大学病院 初期臨床研修医
平成26年1月 金沢医科大学病院 糖尿病・内分泌内科学教室
平成30年4月 金沢医科大学病院 助教
平成30年9月 金沢医科大学大学院医学研究科 博士課程修了
令和3年1月 金沢医科大学病院学内講師
令和5年6月 Gran Clinic(石川県金沢市)院長

■所属学会
日本内科学会 認定医
日本糖尿病学会 専門医
日本抗加齢医学会 専門医
日本腎臓学会
日本内分泌学会

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