HbA1cが高いのに中性脂肪が低い理由!糖尿病の病態と適切な対策を解説

HbA1cが高いのに中性脂肪が低い理由!糖尿病の病態と適切な対策を解説

中性脂肪は低いのに、健康診断でHbA1cの高さを指摘された、このような状態にあなたは戸惑っていませんか。

実は中性脂肪が低くても、HbA1cの数値が高いのは決して珍しくはありません。

この検査結果は、あなたの糖尿病が一般的なタイプとは異なる、隠れたメカニズムで進行している可能性を示しています。

そして非典型的な糖尿病であった場合、あなた特有の糖尿病対策が欠かせません。

本記事では、痩せ型の人がHbA1cが高い状態になるメカニズムや特別な対処法を紹介します。

この記事でわかること
  • 日本人は欧米人に比べて、膵臓のホルモン生成能力が低いため、HbA1cが高くても中性脂肪が低い状態はよく起こる
  • 膵臓が疲れたり壊れたりするとインスリンが出ないため、中性脂肪が低くても、血糖値だけが上がる
  • 非典型的な糖尿病の人は、膵臓がインスリンを作る力が弱いため、膵臓に負担をかけない食事が大切
  • 非典型的な糖尿病の場合、判断には専門検査が必要
  • 血糖値が高い状態が続くと、血管の弾力低下や血流が悪化して合併症を招く
  • β細胞は一度減ると回復が難しく、膵臓の残された機能を守るためには、早期の適切な治療介入が欠かせない
  • 医師との相談を通じて、日々の生活習慣の見直しや自分に合った管理を始めるのが健康な未来への鍵

自身の症状が一般的な糖尿病とは違うのか心配な人や、痩せているもののHbA1cが高く不安を抱いている人は、本記事を読んで不安を解消しましょう。

目次

一見矛盾に感じるHbA1cが高いのに中性脂肪が低い状態はよく起こる

糖尿病は、肥満や脂質異常症がセットというイメージを持っている人が多いです。

しかし実際には、高血糖と中性脂肪の値は必ずしも同じ方向に動くわけではありません。

特に日本人は、やせ型糖尿病が多く、中性脂肪が低いのに血糖だけ高いパターンは典型例です。

特に以下の理由で、一見矛盾するような検査結果はよく見られます。

  • 初期の血糖異常で、中性脂肪にはまだ影響が出ていないため
  • 日本人は欧米人に比べて、膵臓がインスリンという血糖値を下げるホルモンを作る力が元々低いため
  • HbA1cは過去1〜2ヶ月の平均血糖を示すのに対し、中性脂肪は短期間の食事内容に影響され、朝食抜きや低脂肪ダイエットなどによって検査結果の差が出たため
  • 睡眠不足や慢性的なストレスによって、肝臓がブドウ糖を大量に作り、朝の空腹時血糖やHbA1cが上昇したため

HbA1cが高いのに中性脂肪が低い状態は、必ずしも非典型的な糖尿病を示すわけではないと理解しておきましょう。

そして次の内容では、上記で説明した理由以外に、瘦せ型の人がHbA1c高値になるメカニズムを紹介します。

参考:糖尿病情報センター(国立国際医療研究センター)

日本内科学会雑誌第105巻第3号病態と発症機序を考える 2)日本人型インスリン分泌不全を考える

令和4年国民健康・栄養調査報告|厚生労働省

特定健診・特定保健指導について|厚生労働省

日本人の食事摂取基準 |厚生労働省

Impact of Five Nights of Sleep Restriction on Glucose Metabolism, Leptin and Testosterone in Young Adult Men – PMC

ストレスと血糖調節

膵臓の機能低下によって痩せ型の人もHbA1cが高い状態になる

瘦せ型の人がHbA1c高値になる原因。膵臓の機能低下

痩せ型の人がHbA1c高値になる根本的な原因は、膵臓の機能低下です。

血糖値を下げるホルモンであるインスリンは、膵臓にあるランゲルハンス島のβ細胞から分泌されます。

しかし、膵臓が疲れたり壊れたりするとインスリンが分泌されません。

そのため肥満傾向にない人や、中性脂肪が低い場合にも血糖値だけが上がってしまいます。

痩せていて脂質異常もないのにHbA1cだけ高いという結果は、膵臓のインスリンを出す力が弱っているタイプの血糖異常で起こる現象です。

そして痩せ型でインスリン分泌が落ちる病型として代表的なものには、以下の2つがあります。

  • SPIDDM
  • LADA

非典型的な糖尿病であるこの2つの病型が起こる原因やそれぞれの特徴を、以下の表でまとめました。

病型別名起こるメカニズム特徴
SPIDDM緩徐進行1型糖尿病身体の免疫が膵臓を攻撃し、徐々にインスリンを作る力が減っていく・名前の通りゆっくり進む1型糖尿病
・最初は普通の2型糖尿病に似た症状が見られる
・数ヶ月〜数年で経口薬ではコントロールできなくなり、インスリンが必要になる場合が多い
LADA成人発症の1型糖尿病身体の免疫が膵臓を攻撃し、徐々にインスリンを作る力が減っていく・大人になってから発症する自己免疫性の糖尿病
・子どもの1型糖尿病と違って、ゆっくり進む
・数年かけてインスリンが必要になる場合が多い

どちらも成人期にゆっくり進む自己免疫性の糖尿病で、膵臓のβ細胞が徐々に破壊されるのが共通のメカニズムです。

参考:New diagnostic criteria (2023) for slowly progressive type 1 diabetes (SPIDDM): Report from Committee on Type 1 Diabetes in Japan Diabetes Society (English version)

緩徐進行1型糖尿病の診断基準(2023)1型糖尿病における新病態の探索的検討委員会報告日本糖尿病学会誌第66巻第7号

非典型的な糖尿病の人は膵臓に負担をかけない食事療法が大切

痩せ型で血糖だけが高くなるSPIDDMやLADAなど非典型的な糖尿病の人は、膵臓がインスリンを作る力が弱まっています。

そのため、膵臓に負担をかけない食事が大切です。

以下では、膵臓に負担をかけない具体的な食事の工夫をまとめました。

食事の工夫具体策理由
糖質を完全に制限するのではなく、膵臓が無理なく対応できる量に調整する・ごはんやパン、麺は1食あたり適量を守る
・果物は少量を間食として摂る
一度に大量の糖質を摂ると、膵臓がインスリンを出そうと頑張るため、血糖変動が大きくなる
血糖を急に上げず、栄養状態を保つ脂質を選ぶ・魚の脂やオリーブオイル、アボカドを摂取する
・ナッツ類を食べる
・揚げ物やバターの過剰摂取は控える
適切な脂質は膵臓への負担を抑えつつ、身体のエネルギー源やホルモンの材料になる
極端な食事制限を避ける・夕食は糖質を少なめにする
・ごはんやパンの前に、野菜やきのこを摂取する
・チョコや菓子パンなど急に血糖値が上がる食品は避ける
極端な糖質制限は膵臓への負担になる


ただし、膵臓の機能がどれくらい低下したかは人によって違うため、食事療法は自分の血糖値や体調を見ながら調整するのが基本です。

食後血糖が急に上がる人は糖質を少し減らす、低血糖になった経験がある人は間食で調整するなど、個別対応が求められます。

参考:糖尿病診療ガイドライン2024|一般社団法人日本糖尿病学会

Efficacy of probiotic co-supplementation with omega-3 PUFAs on pancreatic beta-cell function in type 2 diabetes – PMC

The effect of a low-carbohydrate, ketogenic diet versus a low-glycemic index diet on glycemic control in type 2 diabetes mellitus – PMC

HbA1cが高いのに中性脂肪が低い人はGAD抗体などの専門検査が必要

HbA1cが高いのに中性脂肪が低い人、専門検査が必要

一般的な2型糖尿病とは異なる非典型的な糖尿病の場合、その判断にはGAD抗体などの専門検査が重要になります。

GAD抗体とはグルタミン酸脱炭酸酵素抗体のことで、膵臓のインスリンを作るβ細胞を自分の免疫が攻撃しているかどうかを調べる血液検査です。

陽性の人は自己免疫による膵臓のβ細胞が破壊されている可能性があると、科学的に判断する手がかりになります。

他にも血糖だけでなく、膵臓がどれくらいインスリンを出せるかを調べる、以下の検査も有効です。

検査目的検査値が示す意味
C-ペプチド検査膵臓がインスリンを作った量を間接的に評価する低い場合、β細胞の働きが弱い
血糖負荷試験食後の血糖とインスリンの動きを詳しく評価する血糖値が高い場合は血糖コントロールが不十分

これらの専門検査は非典型的な糖尿病かどうかを判断し、将来的な治療方針を決めるために不可欠です。

早期に膵臓の残りの力を守る生活や食事療法を計画するうえでも重要であるため、医師へ相談しましょう。

参考:gad – 国立大学法人 岡山大学

診断と検査 – NCGM

見た目が痩せていても高血糖による合併症リスクは変わらない

痩せ型であっても、血糖値が高い状態が続くと、身体への影響は決して軽くありません。

痩せてる人は大丈夫と思いがちであるものの、体型に関わらず血糖が高い状態は全身の血管を傷つけます。

影響を受ける臓器としては以下があり、いずれも高血糖が続き血管の細胞がダメージを受けた結果、血管の弾力低下や血流が悪化して合併症を招きます。

  • 腎臓
  • 神経
  • 心臓、脳

それぞれの臓器が影響を受けて起こる合併症や症状を、以下にまとめました。

臓器合併症症状
網膜症・かすみ目
・視力低下
・進行すると失明
腎臓腎症・尿たんぱくの増加
・むくみ
・進行すると腎不全
神経神経障害・手足のしびれ
・痛み
・感覚が鈍くなる
心臓、脳狭心症や心筋梗塞、脳卒中などの心血管疾患・動悸
・息切れ
・胸の痛み

合併症の早期発見や進行を遅らせるには、早期の血糖値コントロールが欠かせません。

そのため、痩せ型の人も慢心せずに定期的な病院受診が大切です。

膵臓の残った機能を守るには早期の治療介入が欠かせない

膵臓の残った機能を守る。早期の治療介入が欠かせない

痩せ型や非典型的な糖尿病の人が膵臓の残された機能を守るために、早期の適切な治療介入が必要な理由は、以下のとおりです。

  • β細胞は一度減ると回復が難しいため
  • 血糖が高い状態を放置すると、膵臓に過剰な負担がかかり残された機能がさらに低下するため
  • 早めに血糖を安定させると、将来のインスリン注射の必要性が遅れるため

具体的な治療介入には、先述した食事療法の他にも、運動療法薬物療法があります。

運動療法ではウォーキングや水泳などの軽い有酸素運動、薬物療法ではインスリンの分泌を助ける薬や血糖値を改善させる薬を使用します。

自己判断でなく早めに医師に相談する行動が、β細胞の残された機能に応じた最小限の負荷で血糖をコントロールする第一歩です。

参考:β-Cell Deficit and Increased β-Cell Apoptosis in Humans With Type 2 Diabetes | Diabetes | American Diabetes Association

自分の糖尿病を正確に把握する行動が適切な治療への第一歩となる

HbA1cが高いのに中性脂肪が低いという状態は、自分の糖尿病が特殊なタイプなのではないかと不安を感じる人も多いでしょう。

しかし欧米人と比較して、膵臓のインスリン分泌能力が低い日本人では、決して珍しいものではありません。

血糖値やHbA1c、中性脂肪などの非典型的な検査結果に戸惑わずに、膵臓の残された機能や自己抗体の有無を知るのが大切です。

そして痩せ型であっても血糖値が高い状態が続くと、血管を傷付け糖尿病合併症を招きます。

自覚症状がなく見た目が健康的でも、膵臓に負担をかけない独自の食事管理法が大切です。

医師との相談を通じて、日々の生活習慣の見直しや自分に合った管理を始めるのが、健康な未来への鍵となります。

この記事の監修者

大学病院で糖尿病・内分泌内科の臨床医として経験を積み「リサーチマインドを持った診療」をモットーに日々研鑽を積んでまいりました。当院が少しでもあなた様のお役に立つことが出来れば幸いです。

■経歴
平成21年3月 金沢医科大学医学部医学科卒業
平成21年4月 杏林大学病院 初期臨床研修医
平成26年1月 金沢医科大学病院 糖尿病・内分泌内科学教室
平成30年4月 金沢医科大学病院 助教
平成30年9月 金沢医科大学大学院医学研究科 博士課程修了
令和3年1月 金沢医科大学病院学内講師
令和5年6月 Gran Clinic(石川県金沢市)院長

■所属学会
日本内科学会 認定医
日本糖尿病学会 専門医
日本抗加齢医学会 専門医
日本腎臓学会
日本内分泌学会

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